
「老後2000万円問題」とは?その発端や根拠は?「老後2000万円問題」が嘘とは?

・「老後2000万円問題」とは?
・老後2000万円問題の発端や根拠は?
・「老後2000万円問題が嘘」とは本当?
「老後2000万円問題」とは、老後30年で2000万円の不足が生じるとする問題です。
2019年に金融庁が発表したことにより、老後を不安視する人々が増えました。
けれども2024年現代において、老後資金は2000万円も必要ないとも言われています。
本記事を読むことで、老後2000万円問題とはなにか?
老後2000万円問題の発端や根拠、2024年現代に「老後2000万円問題は嘘」と言われる根拠が分かり、冷静に老後資金への対策ができます。

「老後2000万円問題」とは?

◇「老後2000万円問題」とは、老後30年間に必要な老後資金を指します
「老後2000万円問題」の発端は、金融庁による金融審議会「市場ワーキング・グループ」が2019年に発表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」が発端です。
正確には定年退職後に働かずに過ごし、年金収入のみで暮らした場合、60歳~90歳の30年で年金収入と生活費の差額が、約1,300万円~2,000万円の赤字が生じるとした試算額を指します。
さらに試算したモデルケースは、40年間勤続した日本の平均的なサラリーマン世帯を対象としているため、実際には年金収入も生活費も、老後生活は人によって多種多様です。
老後2000万円問題の根拠:夫婦世帯

◇年金収入と生活費(支出)の収支が、5万4,520円/月の赤字が生じたとされます
前述したように金融庁の金融審議会が老後の資産形成について審議するため、老後30年間の赤字額を算出したことが発端です。
ただ、この「平均的な世帯」は、総務省が2016年に調査をした家計調査報告書に基づいて計算されています。
そのため、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも、「あくまでもモデルケース」として受け止めなければなりません。
<老後2000万円問題の根拠:夫婦世帯> | |
[モデルケース] | ・夫65歳以上 ・妻60歳以上 ・無職世帯 (年金収入のみ) |
①公的年金による収入 (平均的な世帯) |
●20万9,198円/月 |
[内訳] | ・勤務収入…4,232円 ・事業収入…4.045円 ・年金収入…19万1,880円 ・その他収入…9,041円 |
②老後の生活費(支出) (平均的な家計) |
●26万3,718円/月 |
[内訳] | ・食費…6万4,444円 ・住居費…1万3,656円 ・光熱水道費…1万9,267円 ・家具家事用品…9,405円 ・被服及び履物…6,497円 ・保健医療費…1万5,512円 ・交通通信費…2万7,576円 ・教育費…15円 ・教養娯楽費…2万5,077円 ・その他の消費支出…5万4,028円 ・非消費支出…2万8,240円 (社会保険などの支払い) |
③収支の差額 | ●5万4,520円/月の赤字 |
[内訳] | ・支出…26万3,718円/月 ・収入…20万9,198円/月 ・差額…5万4,520円/月 |
④老後30年間の赤字 | ●1,980万円 |
[内訳] | ・月々の赤字…5万4,520円/月 ・1年の赤字…65万4,240円/年 ・30年の赤字…1,962万7,200円 |
また老後2000万円問題により、日本で老後の不安が際立った2019年以降、日本の経済状況はもちろん、老後の考え方もどんどん変化しています。
さらに2022年度より、年金制度の改正の施行が順次始まりました。
現代40代世帯が老後を迎える頃、そもそも専業主婦の存在自体がほぼ皆無かもしれません。
老後2000万円問題の根拠:単身世帯
◇年金収入と生活費(支出)の収支が、4万715円/月の赤字が生じたとされます
同じく2019年に発表された「高齢社会における資産形成・管理」 でモデルケースの参考となっている「家計調査報告(家計収支編)平成29年(2017年)」では、60歳以上の独身(単身)無職世帯において、毎月4万715円/月の赤字と算出されました。
<老後2000万円問題の根拠:夫婦世帯> | |
[モデルケース] | ・60歳以上 ・無職世帯 (年金収入のみ) |
①公的年金による収入 (平均的な世帯) |
●11万4,027円/月 |
[内訳] | ・年金収入…10万7,171円 ・その他収入…6,856円 |
②老後の生活費(支出) (平均的な家計) |
●15万4,742/月 |
[内訳] | ・食費…3万5,407円 ・住居費…1万4,504円 ・光熱水道費…1万2,940円 ・家具家事用品…6,115円 ・被服及び履物…3,839円 ・保健医療費…7,963円 ・交通通信費…1万3,082円 ・教育費…0円 ・教養娯楽費…1万6,921円 ・その他の消費支出…1万8,881円 ・交通費…1万7,490円 ・非消費支出…1万2,544円 (社会保険などの支払い) |
③収支の差額 | ●4万715円/月の赤字 |
[内訳] | ・支出…15万4,742/月 ・収入…11万4,027円/月 ・差額…4万715円/月 |
④老後30年間の赤字 | ●14,65万7,400円 |
[内訳] | ・月々の赤字…4万715円/月 ・1年の赤字…48万8,580円/年 ・30年の赤字…14,65万7,400円 |
ただこちらも2019年に報告され、ベースとなる家計データは2017年に調査されたものであり、2024年の現代では少し情報が古くなります。
また日本の平均的なモデルケースを参考に算出しているため、夫婦世帯同様、全ての独身60代以上の世帯で当てはまる訳ではありません。
・総務省:家計調査報告(家計収支編)平成29年(2017年):単身世帯
老後2000万円問題は嘘?

◇老後2000万円問題は、モデルケースに対して算出した数字です
確かに金融審議会では「高齢社会における資産形成・管理」において、老後資金2000万円が必要とする数字を出しました。
けれどもあくまでも日本の平均的な世帯をモデルケースとして、具体的な数字、約2000万円の貯蓄の切り崩しが起こることを算出しただけです。
日本の全ての国民が老後資金2000万円を要すると報告した訳ではありません。
けれども日本のマスコミが、詳細を省略して「老後2000万円問題」「公的年金だけでは老後2000万円が赤字になる」と捉えられるような報道をしたことにより、国民の老後不安が刺激され、大変な問題となりました。
・2017年の調査を軸としている
・平均的なモデルケースで算出している
(全ての世帯にあてはまる数字ではない)
・寿命は人によって違う
・2022年度より年金制度改正が順次施行されている
また2017年の調査を軸としたものですので、2024年現在では変化も生じています。
2022年度からは年金制度の改正も順次施行されている最中です。
この点はよくよく理解して、冷静に自分のケースでの具体的な老後資金を把握して、適切な対策を取りましょう。
・2024年年金制度はどう変わる?人生100年時代の年金制度、押さえるべき5つの改正
最新の老後資金:夫婦世帯の目安は?
◇2021年の家計調査年報に基づくと、必要な老後資金は555万7,200円です
それでは2021年度に総務省より発表された家計調査年報を基に、定年退職年齢である65歳~90歳の25年で必要な老後資金を出してみましょう。
こちらもモデルケースは男女共に65歳以上の高齢夫婦で、男性は40年間勤務し保険を支払い、女性は専業主婦としたケースです。
<老後2000万円問題は嘘?夫婦世帯> | |
[モデルケース] | ・夫65歳以上 ・妻65歳以上 ・無職世帯 (年金収入のみ) |
①公的年金による収入 (平均的な世帯) |
●23万6,576円/月 |
[内訳] | ・年金収入…21万6,519円 ・その他収入…2万57円 |
②老後の生活費(支出) (平均的な家計) |
●25万5,100円/月 |
[内訳] | ・食費…6万5,760円 ・住居費…1万6,608円 ・光熱水道費…1万9,525円 ・家具家事用品…1万324円 ・被服及び履物…4,937円 ・保健医療費…1万6,159円 ・交通通信費…2万5,136円 ・教育費…0円 ・教養娯楽費…1万9,301円 ・その他の消費支出…2万5,810円 ・交通費…2万648円 ・非消費支出…3万664円 (社会保険などの支払い) |
③収支の差額 | ●1万8,524円/月の赤字 |
[内訳] | ・支出…25万5,100円/月 ・収入…23万6,576円/月 ・差額…1万8,524円/月 |
④老後30年間の赤字 | ●555万7,200円 |
[内訳] | ・月々の赤字…1万8,524円/月 ・1年の赤字…22万2,288円/年 ・25年の赤字…555万7,200円 |
このように2017年の総務省・家計調査年報に基づいて試算をした結果、必要な老後資金が約2,000万円となったのであり、違う年度の家計調査年報に基づくと、全く違う結果となります。
最新の老後資金:単身世帯の目安は?
◇65歳の独身(単身)世帯で必要な老後資金は282万600円でした
同じく最新の2021年総務省・家計調査年報に基づいて、65歳の独身(単身)世帯に必要な老後資金を試算すると、その結果は282万600円となります。
また2024年時点で年金制度も大きく変化し、定年退職年齢は65歳、90歳までの老後資金は25年に短縮されるでしょう。
さらに年金受給年齢は60歳~75歳まで、申請により自分で調整できます。
<老後2000万円問題は嘘?単身世帯> | |
[モデルケース] | ・65歳以上独身 ・無職世帯 (年金収入のみ) |
①公的年金による収入 (平均的な世帯) |
●13万5,345円/月 |
[内訳] | ・年金収入…12万470円 ・その他収入…1万4,875円 |
②老後の生活費(支出) (平均的な家計) |
●14万4,747円/月 |
[内訳] | ・食費…3万6,298円 ・住居費…1万3,115円 ・光熱水道費…1万2,585円 ・家具家事用品…5,034円 ・被服及び履物…2,914円 ・保健医療費…8,478円 ・交通通信費…1万2,187円 ・教育費…0円 ・教養娯楽費…1万2,585円 ・その他の消費支出…13,778円 ・交通費…1万5,367円 ・非消費支出…1万2,271円円 (社会保険などの支払い) |
③収支の差額 | ●9,402円/月の赤字 |
[内訳] | ・支出…14万4,747円/月 ・収入…13万5,345円/月 ・差額…9,402円/月 |
④老後30年間の赤字 | ●282万600円 |
[内訳] | ・月々の赤字…9,402円/月 ・1年の赤字…11万2,824/年 ・25年の赤字…282万600円 |
ただし2023年・2024年は物価の高騰が話題になった年でもあり、今後の家計調査年報は、また違う変化が生じるでしょう。
そのため老後2000年問題は嘘ではないのですが、ごく平均的な日本人をモデルケースとしていることと、その年度によって想定される生活基準が変化するため、個々のケースに合わせた冷静な判断が必要です。
・総務省:家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)家計調査
老後2000万円問題の注意点

◇老後2000万円問題は2019年時点の平均的な日本人をモデルケースとした試算です
何度も言いますが老後2000万円問題として、単純に「65歳までに2000万円必要!」と不安を募らせる、慌てる行為は避けた方が良いでしょう。
その根拠を理解して、自分のケースに合わせた具体的な数字を出す必要があります。
・年金収入は人によって違う
・賃貸や住宅ローンを考慮していない
・余裕のある暮らしを想定していない
・介護・病気による支出を想定していない
・人の寿命は分からない
このようなことから、老後2000万円問題を必要以上に慌てる必要はない一方で、2021年の家計調査年報に基づいて、老後資金が約300万円だからと安心するのも注意が必要です。
まずは年金収入の見込み額を「ねんきん定期便」により確定し、満額の年金をもらうために必要な対策を取る他、個別の老後資金対策も検討することをお勧めします。
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老後2000年問題の対策とは
◇最も堅実な老後2000年問題対策は、収入を得続けることです
2024年現在で余裕のある老後生活には、月々約37万9千円と言われます。
約37万9千円/月を想定して、65歳時点での老後資金を算出すると、25年間で約4,770万円となり、現代の日本ではあまり現実的とは言えません。
なかには退職金のない企業も増えたなか、40代50代からできる最も現実的な老後対策は、収入を得続けることだと言えるでしょう。
ただ、これだけではなく、少しでも早い段階から対策をしたい5つの事柄があります。
<老後2000年問題対策> |
①具体的な数字を出す |
・退職後の月々の生活費を出す ・年金見込み額を確認する ・退職金を確認する ・65歳~90歳をシュミレーションする |
②老後も働き続ける |
・再雇用(現役時代の会社) ・再就職(新しい会社) ・アルバイトやパート ・個人事業主 ・派遣社員 |
③老後資金を効果的に貯める |
・個人拠出年金「iDeCo(イデコ)」 ・個人非課税投資「NISA(ニーサ)」 |
2024年現代の老後は、元気なうちは年金受給を繰り下げしながら、現役時代の70%を目安に収入を得ながら老後資金をできるだけ切り崩さず使う判断が多いです。
そしていよいよ働くにはしんどくなった75歳以上で、高くなった年金受給を受けながら、老後資金を切り崩して生活をする流れが増えました。
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まとめ:老後2000万円問題は、個々のケースで違います

2019年に金融庁より発表されたことで話題となった「老後2000万円問題」ですが、実際には老後の資産形成について、2017年の家計調査を基に、ごく一般的な日本人モデルケースの老後資金を試算したに過ぎません。
漠然と「65歳までに2000万円の老後資金を貯めなければならない」と老後の不安を募らせることも、「貯蓄が2000万円あるから老後は大丈夫!」と高を括ることも、どちらも良い判断とは言えないでしょう。
老後2000万円問題への対策を取るならば、自分の年金収入や副収入、生活費や介護など想定外の資金500万円をプラスした具体的な数字を出して、必要額をいかに準備するか、どこが節約できるかを検討しましょう。
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