
相続開始日とはいつ?死亡日・相続を知った日との違いや失踪宣告との関係

相続について家族間で話し合ったことはあるでしょうか。相続の金額や、相続を受け取る相続人について話題になることは多くても、「相続」という手続きがいったいいつ開始するものなのか、確認したことがあるという方もいるでしょう。
本記事では、相続開始の時期について解説しています。相続開始時期は一様だと勘違いしている人も少なくありませんが、状況によって異なるため、開始時期の認識を誤ってしまうと相続の内容が期待と異なってしまう可能性があります。
この記事を読んで正しい知識を身につけておくことで、相続についての判断をしなければならない時に失態を招いてしまうリスクを回避できるようになります。
本記事を参考にして、相続の開始時期を正しく理解しておきましょう。
相続開始日を知ることの意味
相続開始日を知ることに、どのような意味があるのか疑問を感じる方もいるでしょう。相続手続きの中には、相続開始日を起算日として手続き可能な期限が設けられているものもあるため、相続開始日がいつであるかは重要なポイントとなります。
また、民法では「相続は、死亡によって開始する」と定義されているため、相続人が亡くなった時が相続開始日だと理解している方が多いでしょう。しかし、相続人のおかれた状態によって死を知るタイミングは異なるため、注意が必要です。
出典:民法|e-Gov法令検索
相続開始日とはいつのこと?
相続は死亡によって開始するとされていますが、「相続開始日」も故人の死亡日という認識で正しいのでしょうか。ここでは、相続という手続きにおける「相続開始日」について解説します。
相続開始日と死亡日・相続を知った日の違い
相続に関する手続きでは、期限が設けられているものもあります。相続の承認や放棄、相続財産とみなされる生前の贈与、相続税の対象となる財産などで、相続開始日を基準に判断されます。
相続に関する手続きでは、相続開始日が判断の起算日となるだけでなく、「相続の開始があったことを知った日」も起算日となるため覚えておきましょう。相続開始日は、被相続人の死亡日ですが、「相続を知った日」は相続人によって異なります。
相続開始日とは被相続人の死亡日
相続開始日は、被相続人の死亡日であり、相続人が複数いても同一です。
人間の亡くなる際に理由が明確な場合もあれば、亡くなったとみなされる法律上の死亡もあります。また、病院で亡くなる場合のように死亡日時が明確な場合もあれば、死後発見される場合のように死亡日時が不明の場合もあるでしょう。
いずれの場合も、死亡届を提出することで被相続人の戸籍「死亡日」欄には同一の死亡日が記録されるため、相続開始日は同一の日付として確定できます。
出典:民法|e-Gov法令検索
法的に死亡したと扱われる場合
法律に基づいて「死亡した」と認められると、戸籍に死亡日が記録されます。法的に「死亡した」と扱われるのは、病気や事故などによる自然死のほか、行方不明者を死亡したとみなす「擬制死亡」、遺体がみつからないものの死亡を確実と認定する「認定死亡」があります。
ここでは、死亡したと扱われる各種死亡の内容について理解しましょう。
医学的な死亡(自然死亡)
心臓や呼吸が止まって死に至った状態が「自然死亡」です。病死だけでなく、老衰でも自然死亡として扱われます。孤独死や事故、殺人、落雷や地震など災害原因の死亡でも、人間の生命活動が失われて死に至っている以上は、自然死亡の扱いとなります。
法律上死亡したとみなされる失踪宣告(擬制死亡)
行方不明者のように、長年生死が不明なままの状態で家族や利害関係人、社会制度などの安定性を欠くことになる場合は、法律上「死亡したものとみなす」ことができます。
死亡したものとみなす「擬制死亡」は、家庭裁判所に申し立てて、失踪宣告をしてもらわなければなりません。失踪宣告の制度には、失踪者が行方不明になった状況によって普通失踪と特別失踪があり、申し立ての要件が異なります。
出典:失踪宣告|裁判所
出典:民法|e-Gov法令検索
普通失踪
行方が知れなくなってから7年を経過すると「普通失踪」の失踪宣告が可能になります。普通失踪の失踪宣告がされると、失踪宣告を受けた者は失踪から7年を経過した日に死亡したとみなされます。
失踪者は、死亡したと「みなされている」ため、生きていることが明らかになれば、失踪宣告の取消しを申し立てることも可能です。
出典:民法|e-Gov法令検索
特別失踪(危難失踪)
単なる行方不明者ではなく、戦争や船舶事故など死亡した疑いが強いものの確証が得られないような場合は、「特別失踪」としての失踪宣告が可能です。
特別失踪は、危難が去った日から1年間生死が不明であれば、死亡したとみなす宣告を家庭裁判所に申し立て可能です。失踪宣告がされると、死亡日は危難が去った日とされます。
出典:民法|e-Gov法令検索
事故や災害などによる認定死亡
認定死亡は、事故や災害が原因で死亡した疑いが強いものの、遺体がみつからず死亡の確証が得られない時に、官公署が死亡を認定する制度です。認定死亡では、利害関係人が「死亡日」として届け出た日を官公署が認定すれば、その日が死亡日となります。
特別失踪と似ていますが、特別失踪は家庭裁判所が審判し、認定死亡は官公署が認定するという違いがあります。
脳死については判断が定まっていない
日本では、脳死という状態を通常は人間の死として定義しておらず、臓器提供を前提とした場合のみ「人間の死」の態様の1つとして認めています。
脳死を人間の死として扱うかの判断は定まっていませんが、相続開始日となる「死亡日」には、医師が死亡診断書に記入した日が記録されるため、相続時に問題となることはないでしょう。
相続開始を知った日が起算日となる手続きと期限
「相続開始を知った日」を起算日とする遺産相続の手続きには、どのような内容があるのでしょう。期限となるのは、どのくらいの期間なのでしょう。
ここでは、相続開始を知った日を起算日として一定の期限内に行う手続きについて紹介します。期限を失念して、権利を失ってしまうことがないように、覚えておきましょう。
相続放棄・限定承認は知った時から3か月
民法では、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続の単純承認・限定承認・放棄をしなければならない」とされています。
限定承認とは、被相続人の一部のみを承継する相続方法です。被相続人にどのくらい債務があるか不明な時は、限定承認で相続しておけば、債務の返済も相続した遺産の範囲に限定されます。複数の相続人がいる場合は、1人だけ限定承認することはできません。
相続放棄は、預金や不動産などのプラスとなる遺産も、債務のような負債も放棄する方法です。複数の相続人がいても1人だけ相続放棄することも可能です。
出典:民法|e-Gov法令検索
3か月後でも相続放棄が認められる場合
相続の承認や相続放棄については、「相続開始を知ってから3か月以内」という期限が設けられていますが、要件を満たせば伸長が可能です。「相続開始を知ってから3か月」は、熟慮期間として位置づけられています。
熟慮期間内に相続人が相続財産を調査しても、相続の承認あるいは相続放棄を決定できない事情がある場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。熟慮期間伸長の申し立ても、相続開始を知ってから3か月以内にしなければなりません。
出典:民法|e-Gov法令検索
後順位相続人の熟慮期間
相続の熟慮期間は「相続開始を知ってから3か月以内」であるため、後順位の相続人も、自分にとっての相続が開始したことを知ってから3か月の熟慮期間があります。
被相続人には娘と息子がおり、被相続人が亡くなったあと1か月後に娘も亡くなったというケースを考えてみましょう。息子の熟慮期間は被相続人の死を知ってから3か月間、亡き娘の熟慮期間は亡き娘の死を知ってから3か月間ということになります。
出典:民法|e-Gov法令検索
熟慮期間伸長の申立
熟慮期間伸長は、相続開始地の家庭裁判所に、相続人を含む利害関係人が申し立てることができます。相続開始地とは、被相続人の最後の住所地です。申し立ては利害関係人のほか、検察官からも行えます。
申し立てには、被相続人の除票のほか、利害関係人の利害関係を証明する書類も必要です。熟慮期間伸長の申し立ては、本来の熟慮期間である「相続開始を知ってから3か月」を経過してからは行えないため注意しましょう。
感染症の影響で熟慮期間中に手続きが行えないというケースでも、熟慮期間伸長の申し立て理由となります。
出典:新型コロナウイルス感染症に関連して,相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ|法務省
遺留分侵害額請求は知った時から1年間
被相続人が遺贈したために、相続人が本来受け取れるはずだと期待していた財産を受け取れなくなった場合には、一定の「遺留分」を主張できます。遺留分が侵害されていることに気付いた場合は、「遺留分侵害額の請求」を行使します。
遺留分侵害額の請求権は、相続の開始・遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年で時効となるため、注意が必要です。相続開始を知らない場合でも、相続開始から10年で時効となります。
出典:民法|e-Gov法令検索
準確定申告は知った日の翌日から4か月
死亡した納税者に代わって相続人が確定申告することを「準確定申告」といいます。通常の確定申告の納税日とは異なり、準確定申告では、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告しなければなりません。
相続税申告は知った日の翌日から10か月
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日を起算日とし、10か月以内とされています。相続税は、相続人ではなく被相続人の住所地の税務署に申告しなければならないという点でも注意が必要です。
申告期限を過ぎてしまうと、延滞金が必要になる場合もあるため、10か月の期限内に申告できるように心がけましょう。
知った日の翌日から10か月とされる他の手続き
特殊な相続となる場合も、相続開始日が特殊であったり、期限が3か月より長めに設定されていたりします。
ここでは、廃除されていた相続人が「廃除取消し」により、相続人たる権利が復活した場合や、胎児が相続人だった場合、認知が被相続人の死後になされた場合について解説します。
廃除が取り消された相続人・死後認知された相続人の場合
廃除の審判を受け、相続人の資格がなかった者が廃除取消しにより復権した場合や、被相続人の死後に認知された相続人は、被相続人の死を知った日が「相続開始日」にはなりません。
廃除取消しや死後認知は、いずれも裁判によって確定します。廃除取消しや死後認知により、被相続人の死亡から時を経て新たに相続人となった者は、相続開始日を「裁判が確定した日」として、熟慮期間を算定することになります。
胎児・幼児の場合
胎児や幼児でも相続人になれます。胎児が死産だった場合は、胎児の相続分はほかの相続人に分配されることになります。
胎児が生きて生まれた場合は相続人として遺産を受け取るため、相続税の申告が必要になります。しかし、相続税の申告期限までに生まれない可能性もあることから、期限の伸長が可能です。
相続時に胎児だった場合は、生まれた日から2か月後まで相続税の申告期限が伸長されます。相続人が幼児の場合は、弁識能力のない者とみなされるため、幼児の法定相続人が相続開始を知った日を起算日とします。
被相続人の最後の住所が相続開始地
相続は、被相続人である故人の最期の住所地で開始します。相続税の納税地や遺産分割協議の審判を申し立てるべき地となるため、覚えておきましょう。相続に関しては、相続人の所在地ではなく被相続人の住所地で手続きを行うことになります。
出典:民法|e-Gov法令検索
相続開始日を知り期限内に手続きを行おう
相続に関する手続きは、「相続開始を知った日」が基準となるものが多く、手続き可能な期間も1か月から10か月程度と、あまり長くはありません。
期限の起算点となる日が「相続開始」なのか、「相続開始を知った日」なのか、ほかの要件なのかを把握し、期限内に手続きが行えるようにしておきましょう。
相続の承認・放棄に関しては、手続き可能な期限があるため、期限後は手続きができなくなります。税金関連については申告期限であり、期限を過ぎると延滞金が発生する可能性もあります。権利を失うことがないように、しっかりと理解しておきましょう。
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