相続人に認知症の人がいる場合の遺産分割|問題点や解決策を紹介
「相続対策について知りたい」
「相続トラブルを避けたい」
「相続人が認知症になってしまった」
このように遺産相続についてさまざまな悩みや疑問を抱えている方もいるでしょう。
本記事では相続人の1人が認知症となってしまった場合の問題点に加え、一般的に利用される解決策や成年後見人制度について紹介しています。
成年後見人制度を利用する際の手続方法や、利用する際の注意点についても解説しているため将来の遺産相続について不安を抱えている方にとっても役立つ内容です。遺産相続において発生しやすい問題点も把握できるため、対策を考えることもできるでしょう。
遺産分割について悩みを抱えている方、相続トラブルを避けたい方もぜひ参考にしてみてください。
相続人の中に認知症の人がいる場合の相続
相続人が認知症の場合、本人の判断能力がないとされ遺産分割協議などは無効となります。民法第三条の二には当事者が意思能力を有しない場合の法律行為は無効になると記載されています。
そのため、相続人の中に認知症の方が含まれる遺産分割協議に参加しても、その協議自体が無効になってしまうため注意しましょう。
本記事では相続人に認知症がいる場合の遺産分割方法について解説します。
出典|参照:民法 第三条の二 | e-Gov法令検索
認知症の相続人がいる場合の相続で問題になること
相続人が認知症となった場合、さまざまな問題点が発生することがあります。しかし事前に問題点を把握することで、未然に防げるトラブルもあるでしょう。
認知症は脳の認知機能が衰えてしまい、自力での日常生活が困難になったり正常な判断能力が低下したりすることです。症状によっては意思疎通が難しくなるケースもあるため、遺産相続に関しての話し合いもしづらくなります。
次に相続人が認知症の場合に発生しやすい問題点について紹介します。
出典|参照:認知症|こころの情報サイト
遺産分割協議ができない
認知症の人は判断能力が欠けていると判断されるため、遺産分割協議に入れないということに注意が必要です。認知症の人の場合、本人が適切に遺産分割の内容や遺産を破棄するといった意思表示をしてもらうことが難しいためです。
このため、相続人の中に認知症の人がいると相続がスムーズには進まないことが予想されるでしょう。遺産分割協議に認知症の人を参加させるには、代理人を選任してもらう必要があります。
出典|参照:民法 第九十八条の二 | e-Gov法令検索
相続する不動産は共同名義になる
相続人が認知症の場合、問題となるのが不動産です。故人の預金などは分割して相続できますが、不動産になると遺産分割協議ができないため細かく分割することが難しくなります。
細かく分割できない不動産については、相続人の共有名義となるのが一般的です。共有名義となると不動産を売却する際に、相続人全員の合意を得なければなりません。
しかし共有名義としている相続人の1人が認知症となると合意を得られず、売却ができなくなってしまうでしょう。
居住者も利用者もいない不動産を持ち続ける可能性が出てきてしまいます。
相続手続きが終わるまで預金口座が凍結される
相続手続きが完了するまで、故人の預金口座が凍結されてしまうことも問題点のひとつとして挙げられます。名義人が死亡したことが銀行へ通知されると、その時点で預金口座は凍結されてしまいます。
預金口座が凍結されると家族であっても、基本的には預金の引き出しはできません。遺産分割協議ができないと名義変更もできないため、故人の預金を生活費や葬式費用等に充てたい場合に困ってしまうケースも出てくるでしょう。
さまざまな特例が使えない
遺産相続は遺族にとってプラスになることばかりとは限りません。相続税などの費用負担も出てきます。通常であれば相続税の負担を少しでも軽減するための遺産分割協議ができますが、法定相続分で相続されるとなると、それが難しくなってしまう場合があります。
遺産分割協議ができないため、税負担を軽減するためのさまざまな特例は使えなくなってしまうでしょう。
相続人の1人が認知症だからといって勝手に相続放棄させられない
遺産相続をする際に、相続人に認知症の人がいると遺産分割協議ができないことからさまざまな問題点が出てきます。たとえ協議ができない状態であっても、勝手に相続放棄させることはできません。
認知症の人が相続放棄する際には、家庭裁判所へ申し立てをして後見人を選任する必要があります。家族が認知症の相続人の代わりに勝手にサインなどをしても、それは無効です。無効になるだけではなく、私文書偽造罪に問われる可能性もあります。
出典|参照:刑法 第百五十九条| e-Gov法令検索
法定相続税分の税金を払うことになる
相続人が認知症となってしまった場合、遺産分割協議は成年後見制度を利用する場合があります。成年後見制度を利用する際においても、法定相続分を確保する必要があります。法定相続分の税金を支払うことを念頭におきましょう。
相続後の財産管理も必要になってくる
相続人が認知症となると、相続したあとの遺産管理に問題が発生する場合があります。不動産管理だけではなく、預金口座管理にも問題が発生するケースもあるのです。
金融機関では預金口座の名義人の判断能力に問題があるとみなした際に、口座を凍結するシステムがありますが、これは名義人に不利益なことが発生しないための対策のひとつです。
凍結されると基本的には成年後見制度を利用しないと、解除の手続きができなくなってしまうでしょう。
認知症の相続人に必要な成年後見人とは
正常な判断をするのに不安を抱える人たちをサポートするのが成年後見人です。成年後見人は依頼者の考えを尊重し、財産を保護するための支援をします。
2025年には5人に1人が認知症となるという推計が出ています。成年後見制度はこの先も利用者が増えてくるでしょう。
認知症の相続人に必要な成年後見制度とは
認知症や知的障害などにより、ひとりで正常な判断ができない方をサポートするのが成年後見制度です。正常な判断が難しくなることで、不利益な契約などを結ばれることがないよう支援することを目的としています。
成年後見制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類があります。手続きや申請方法などは異なるため事前に確認しておきましょう。法定後見制度は被相続人の症状の程度に応じて、補助・補佐・後見の3種類に分けられます。
出典|参照:成年後見制度の種類|成年後見はやわかり
成年後見制度の手続き方法
成年後見制度を利用する際には、家庭裁判所で手続きする必要があります。申し立てをしたうえで、家庭裁判所より尋問や鑑定を行ったうえで、審判され成年後見人の選定などが行われます。
申し立てをする際に必要な書類は次のとおりです。
・本人の戸籍謄本
・申立書
・診断書など
併せて申立手数料や登記手数料も必要となります。必要書類などは家庭裁判所ホームページなどで確認できます。
出典|参照:裁判手続 家事事件Q&A | 裁判所
成年後見制度を利用するときの注意点
成年後見制度を利用する際の注意点がいくつかあります。まず成年後見人が相続人となっている場合には、遺産分割協議を行う際に別の特別代理人を選ぶ必要があることです。
成年後見人は親族の利益ではなく、依頼者の資産の確保を優先する必要があります。そのため依頼者の管理を最優先できる立場である人物を選任しなければなりません。
また成年後見人に対しての報酬も必要です。報酬は依頼人が勝手に決めることはできないため、注意しましょう。成年後見人に対しての報酬は、家庭裁判所が提示した金額となります。
出典|参照:成年後見制度の重要な4つの注意点を専門家がわかりやすく解説します(勘違いや、こんなはずでは… とならないために)| 司法書士おおざわ事務所
親が認知症になったとき相続対策で起こりやすい問題
これまでは相続人が認知症となった際の問題点などについて解説しました。次に親が認知症となった際に、発生しやすい相続対策の問題点について紹介します。
本人が認知症になってしまうと契約の話し合いが困難となったり、遺言書の作成ができなくなったりとさまざまな問題が発生してしまいます。事前に問題を把握し、トラブルをできるだけ回避しましょう。
親の作成した遺言書が無効になる可能性がある
民法九百六十三条に記載されているように、遺言する際には遺言者が能力を有していなければなりません。認知症の症状が重い場合には遺言能力がないと判断されてしまうため、遺言書が無効となってしまう可能性が出てきます。
親が認知症になってしまうと相続問題の話し合いだけではなく、本人名義の契約管理も困難となってしまうでしょう。相続問題について話し合う必要がある際には、親が健康なうちにさまざまな対策をすることが大切です。
出典|参照:民法 第九百六十三条 | e-Gov法令検索
成年後見制度を利用したとしても相続対策にはならない
親が認知症になったとしても、成年後見人制度を利用すれば問題ないと考えている方もいるでしょう。しかし成年後見制度はあくまでも依頼者の財産保護を目的としています。相続対策などを目的とはしていないため気をつけましょう。
成年後見人は、依頼者の財産保護や生活能力に応じた福祉・医療サービスを受けるための契約締結などをするのが職務です。相続人の利益確保や相続対策については関与しません。
出典|参照:埼玉東松山の家族信託|司法書士柴崎事務所
不動産の売却など法律的な手続きができなくなる
認知症になったあとの法律行為は、無効とされるのが一般的です。例えば相続対策として預金口座の解約をしたり、生命保険の加入をしたりしてもその時点で認知症になっていれば全て契約不履行となってしまいます。
認知症発症後の不動産修繕についても無効となるため、相続人にとっては負担になってしまうケースもあります。手入れされていない不動産を相続した際に、修繕費が大規模になってしまう可能性が出てきてしまうのも問題点のひとつでしょう。
判断能力があるうちにやっておくべき相続対策
認知症は誰もが発症する可能性があります。どのような立場であっても認知症と診断されてしまう前に、相続対策はしておきましょう。遺言書を作成するほかに、相続について家族で話し合うのもおすすめです。
次に被相続人・相続人に判断能力があるうちにやっておくべき相続対策について紹介します。
家族信託を活用する
判断能力があるうちに、家族信託を活用するのもひとつの対策です。家族信託とは財産管理を家族などに託し、管理や運用をしてもらうシステムとなります。
財産を託された人は受託者、財産を預ける人が委託者です。受託者は委託者の目的の範囲内で財産の管理や処分を行う権限が与えられます。家族信託を活用することで委託者が認知症などになった際にも、安心して財産管理ができるようになります。
遺言書を作っておく
判断能力があるうちに遺言書を作成することも相続対策のひとつです。遺言書を作成する際にも、いくつか注意点があります。
遺言書の作成時には全遺産の相続方法を記載する必要があり、相続方法が記載されていない遺産があると、相続人による遺産分割協議が必要となってしまいます。
また、遺言書は公正証書遺言を利用するようにしましょう。信頼性が高くなるだけではなく、改ざんや隠蔽などのトラブルを防げます。
任意後見制度を利用する
判断能力があるうちに、自分が信頼できる人物を後見人とするのも相続対策となります。任意後見制度とは自分の判断において、代理人を前もって選べる制度です。
信頼できる人物を選定できるだけではなく、自分の意思を伝えられるというメリットがあります。任意後見制度を利用する際にも、家庭裁判所への申し立てが必要となります。
相続人が認知症の場合の相続について知っておきましょう
被相続人、相続人どちらの立場であっても認知症になってしまった場合にはさまざまな問題点が発生します。認知症と診断されてしまうと遺言書の作成ができなくなったり、契約が無効になったりするというケースも出てくるでしょう。
認知症の人をサポートするシステムはありますが、トラブルをできる限り抑えるためにも本記事で紹介している問題点を把握し、相続対策を事前にしておくことがおすすめです。
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