
相続回復請求権とは?行使できる人や時効についてわかりやすく解説

「もし、相続人でない人が財産を相続してしまったらどうすれば良いの?」
「相続回復請求権って、一体どんな権利?」
「相続回復請求権と遺留分侵害額請求権の違いは?」
本来自分が相続するはずの財産が、知らないうちに別の人に相続されてしまうという場合があります。また、共同相続人が自分の相続分まで相続してしまうケースもあるでしょう。
この記事では、相続回復請求権や行使できる人、その消滅時効について詳しく解説します。また、行使する際の注意点なども解説するため、この記事を読めば法的に理解が難しい相続回復請求権について理解が深まるでしょう。
自分の相続の権利が侵害されている可能性がある場合などは、この記事を参考にして相続回復請求権についての理解を深め、実際に行使する準備を進めましょう。
相続回復請求権とはどのような権利か
「相続回復請求権」とは、相続人(または法定代理人)が自分の相続権を侵害されている場合に、相続財産の占有および支配を回復するための権利です。
この相続回復請求権は民法第884条に規定されており、真の相続人でない「表見相続人」に対して行使できます。ただし、相続回復請求権には消滅時効があるなどさまざまな注意点があります。
相続回復請求権を行使できる人とは
相続回復請求権を行使できるのは、真の相続人(真正相続人)であり、かつ占有するはずの相続財産を失っている人です。
また、相続分の譲受人や包括受遺者、相続財産管理人、遺言執行者も真正相続人に準じて、相続回復請求権を行使できます。逆に、売買取引などで特定の財産の権利を得た特定承継人は相続回復請求権を行使できません。
なお、包括受遺者は遺言書によって包括的に財産を遺贈された人、相続財産管理人は家庭裁判所から選任された財産を管理する人、遺言執行者は遺言を実行する人のことです。
表見相続人とは
真正相続人が相続回復請求権を行使する相手は「表見相続人」です。表見相続人とは、真の相続人ではないにもかかわらず、相続財産を占有するなど権利を侵害している人を指します。
表見相続人は、「相続欠格事由や相続廃除によって相続権を失った人」や「無効な婚姻や無効な養子縁組をした人」が相続人として相続をした場合に該当します。
出典:民法|e-Gov法令検索
相続回復請求権の適用範囲は?
相続回復請求権は真正相続人と上記で示した表見相続人の間だけでなく、自分以外の真正相続人である共同相続人の間でも適用されます。また、持ち分を超えて相続権を主張する共同相続人なども、真正相続人の権利を侵害していることになります。
なお、相続権の侵害については、表見相続人の悪意や過失の有無によって、消滅時効の適用の可否が変わるため、注意が必要です。
相続回復請求権の行使方法とは
相続の権利がない表見相続人が財産を占有している場合は、真正相続人に返還させるために相続回復請求権を行使します。
ここでは、裁判を伴わない請求、および裁判による請求の2種類の方法を紹介します。
訴訟を通じて行使する方法
次項で後述する直接交渉で任意に相続財産の返還が行われない場合は、裁判を起こすことになるでしょう。相続回復請求権の裁判は被相続人の居住地を管轄する地方裁判所において、一般の民事裁判で争います。
訴訟では、自分が相続人であることや目的の財産が遺産の一部であったことを立証します。しかし、被相続人の所有権などの立証は不要です。とは言え、手続きは煩雑になることから、弁護士に相談して準備を進めることをおすすめします。
裁判外で表見相続人と直接話し合う方法
相続回復請求権の行使は、必ずしも裁判所に訴えるという形をとる必要はありません。請求者と表見相続人の間で直接話し合いをしたりメールなどで決着をつけることも可能ですが、一般的な裁判外の請求は表見相続人に内容証明郵便を送付するという方法がとられます。
このような裁判外の請求でも、催告として相続回復請求権の消滅時効を中断できる事由となります。なお、自分自身で内容証明郵便を送付することが難しい場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
相続回復請求権を行使する時に注意すること
前述したとおり、表見相続人によって不当に所有されている相続財産を真正相続人に返還させるには、裁判上と裁判外の請求方法があります。
この請求は遺産の分割割合を決める「遺産分割調停」とは異なります。相続権や相続分を正当な相続人に戻す役割のある相続回復請求権に基づく訴訟を起こす場合は、別途訴訟を起こす必要があるため注意しましょう。
相続回復請求権の消滅時効
民法では、相続回復請求権に消滅時効が規定されています。つまり、ある一定の期間が経過すると、相続回復請求権が行使できなくなってしまいます。
この相続回復請求権についての消滅時効の内容や注意すべきポイントなどについて解説します。
出典:民法|e-Gov法令検索
相続権侵害の事実を知った時から5年経っている
相続権を侵害された事実を知った時から5年経過すると、相続回復請求権は消滅します。そのため、相続回復請求権を行使する可能性のある場合は、なるべく早く動き出すことが重要です。
出典:民法|e-Gov法令検索
相続開始から20年経過している
次に、相続回復請求権の消滅時効として、「相続開始から20年経過すること」も定められています。たとえ、相続権の侵害を知らない場合でも、相続が発生してから20年が過ぎれば、相続回復請求権は時効を迎えて行使できません。
そのため、相続が発生したら入念に相続人と相続分について話し合い、確認しておく必要があります。
出典:民法|e-Gov法令検索
共同相続人が相続権を侵害した場合は適用されない可能性もある
相続回復請求権行使の消滅時効が適用されるのは、相続権を侵害した表見相続人が善意かつ無過失の場合に限られます。
共同相続人が悪意をもって相続権を侵害した場合などは不法占有であり、その場合は消滅時効は成立しない可能性が高いでしょう。
相続回復請求権の消滅時効を防ぐ方法は?
相続回復請求権の消滅時効の成立を防ぐためには、前述したとおり相続回復請求権の行使を開始する必要があります。
内容証明郵便を送付する、直接話し合いをする、訴訟をするなどして、相続回復の請求を行って消滅時効の成立を阻止しましょう。
消滅時効を援用できる人
相続回復請求権行使の消滅時効が援用できるのは、善意で相続権を侵害した表見相続人に限られます。つまり、一般的には表見相続人が自覚なく自分の持ち分ではない相続分を占有していた場合に、時効が適用されると考えられます。
また、表見相続人から遺産を取得した第三者は、消滅時効を援用できません。
一方、悪意や過失がある侵害者に対しては、相続回復請求ではなく所有権の返還請求を行うことになり、相続回復請求権の適用にならないでしょう。
相続回復請求権の放棄について
相続回復請求権は、その行使だけでなく放棄することも認められると解釈されています。これにより、本来は相続すべき人ではない表見相続人でも、相続の回復を請求されないことになります。
ただし、相続回復請求権に関して事前放棄は認められません。相続開始前の相続放棄が認められていないように、相続回復請求権に関しても同様の考え方がとられています。
相続回復請求権と遺留分侵害額請求権の違いについて
続回復請求権は本来相続の権利がない表見相続人に対して、返還を求める権利です。一方、「遺留分侵害額請求権」は相続財産の遺留分の返還を求める権利を指します。両者の権利は適用場面が異なるため注意が必要でしょう。
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)が保障されている最低限の取り分のことです。他の相続人への遺贈や贈与によって、遺留分が侵害された際に遺留分侵害額請求権を行使します。
なお、遺留分が保障されているのは被相続人の配偶者、子およびその代襲者・再代襲者、父母・祖父母など(直系尊属)です。
相続回復請求権という対応方法があることを覚えておきましょう
相続回復請求権は、本来権利のない表見相続人によって相続権が侵害された場合に行使されます。しかし、実際に相続回復請求権が問題になることはあまりないため、広く知られた権利ではないでしょう。
ただし、他の相続人や第三者によって、自分の相続権利が侵害される可能性もあります。そのような場合は、相続財産を取り戻すために相続回復請求権という対応方法があることを覚えておいたほうが良いでしょう。
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