
秘密証書遺言の作成方法とは?メリット・デメリットや作成時の注意点を解説

「遺言の内容を秘密にしたいけど、その方法が分からない」
「秘密証書遺言ってどんなもの?」
「秘密証書遺言のメリット・デメリットが知りたい」
遺言を書くとき、遺言執行のときまでに内容を秘密にしておきたいと考える人もいるのではないでしょうか。
本記事では遺言の中でも秘密証書遺言について紹介し、その特徴やメリット・デメリット、また作成方法といった基礎知識を解説します。あわせて、秘密証書遺言作成時の注意点も紹介していきます。
秘密証書遺言の知識を正しく身に付けることで、後悔のない遺言作成ができるでしょう。秘密証書遺言について詳しく知りたい方は本記事を参考にしてください。
そもそも秘密証書遺言って?
遺言には作成方法の違いにより自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
これらの中でも、秘密証書遺言は遺言者がその内容を秘密にした状態で作成する遺言書のことをいいます。遺言の内容を秘密にし、遺言の実行を確実なものにしたい場合に選ばれています。
ただし、秘密証書遺言では作成した遺言書が秘密証書遺言であることを公証人と2人の証人に確認してもらい、署名押印を行ってもらわなければなりません。
そのため、公証人と証人となった人には秘密証書遺言の存在を知られてしまうことには留意しておきましょう。
秘密証書遺言のメリット
秘密証書遺言は遺言の内容を秘密にできる以外にも、必ずしも自筆で作成しなくても良いことや偽造しにくいことなど、様々なメリットがあります。
以下で、秘密証書遺言のメリットを詳しくみていきましょう。
- 遺言内容を秘密にできる
- 遺言書の確認の手間が省ける
- 偽造できない
- 必ずしも自筆でなくても良い
遺言内容を秘密にできる
秘密証書遺言の作成時に、公証人と証人に秘密証書遺言であることを確認してもらいますが、その内容については確認されることはありません。
ただし、証人となった人には遺言を残したという事実は知られてしまうことには留意しておきましょう。
遺言書の確認の手間が省ける
秘密証書遺言は、遺言者が公証人と証人の前で書面を遺言書だと告げ、その遺言者を封筒に入れて公証人たちに提出します。そのため、自筆証書遺言のように、発見あるいは確認された遺言書が、遺言者によって書かれたものかどうかを確認する必要はありません。
偽造できない
秘密証書遺言では、遺言作成後に偽造や改ざんされる可能性が低くなっています。理由としては、秘密証書遺言は遺言を作成する際に、自身で封筒に入れ印章で封印した上で、公証人と2人の証人の前に提出し認証を受ける必要があるからです。
ただし、秘密証書遺言は遺言者自身で保管しなくてはいけません。保管している間に、偽造や改ざんの被害を受けないよう十分に注意してください。
必ずしも自筆でなくても良い
秘密証書遺言のメリットとしては、自筆証書遺言のように必ずしも自筆で作成しなくても良いことです。
自筆以外の作成方法としては、パソコンやワープロ、あるいは第三者による代筆が挙げられます。ただし、秘密証書遺言の場合でも、遺言書の署名だけは自筆で書かなればいけないことに注意してください。
秘密証書遺言のデメリット
ここまで秘密証書遺言の特徴とメリットを紹介してきましたが、秘密証書遺言にはデメリットもあります。
デメリットの中には秘密証書遺言であるゆえに生じてしまうものもあるため、秘密証書遺言の作成を検討している人はしっかりと確認しておきましょう。
- 費用がかかる
- 形式の不備などをチェックできない
- 紛失や隠匿のリスクがある
- 手間がかかる
- 2人の証人が必要となる
- 内容確認には家庭裁判所の検認が必要
費用がかかる
秘密証書遺言は作成の際に、手数料と公証人と証人に対して報酬を支払わなくてはなりません。
手数料は11,000円、証人は1人当たり5,000円~1万円程度となります。秘密証書遺言では、こうした一定の費用がかかることに注意しましょう。
形式の不備などをチェックできない
秘密証書遺言の場合、特性上、仮に遺言の形式に不備があったとしても法律の専門家などにチェックしてもらえません。そのため、遺言執行時に残した遺言が法的に無効となってしまうおそれがあります。
紛失や隠匿のリスクがある
秘密証書遺言は作成完了後、遺言者自身で保管しなければいけません。そのため、遺言執行までに遺言書をなくしてしまったり、あるいは遺言書を発見した人によって隠匿されてしまったりするリスクもあります。
さらに、秘密証書遺言の場合、自筆証書遺言では適用される「法務局における遺言書の保管制度」の対象外となっている点にも留意しておきましょう。
手間がかかる
秘密証書遺言は、公証役場で公証人と2人の証人に遺言が遺言者のものであることを認証してもらわなければなりません。前述したように、秘密証書遺言は公証人などに支払う費用も必要になるため、公正証書遺言の場合と差ほど違いがないのです。
2人の証人が必要となる
秘密証書遺言のデメリットとして、作成の際に2人の証人を立てる必要があることです。また、誰でも証人になれる訳ではないことにも注意しておきましょう。
証人になれない人には、未成年者、遺言者の推定相続人と受遺者、配偶者と直系親族、また公証人の配偶者などが挙げられます。
つまり、未成年者のような判断能力を認められない人、遺言の内容によって損得が発生する人は、秘密証書遺言の証人になれません。
出典:民法|法務省
内容確認には家庭裁判所の検認が必要
秘密証書遺言で遺言が作成された場合、その遺言に従い相続を開始するためには家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
検認とは、相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせ、遺言書の状態やその内容を明確にすることによって、遺言書が偽造・変造されることを防ぐための手続きです。
また、検認は通常1か月以上の期間を要します。つまり、秘密証書遺言は一定の手続きや時間が必要になるため、スムーズに遺言執行できないといったデメリットがあります。
出典:遺言書の検認|最高裁判所
他の種類の遺言との比較
遺言には秘密証書遺言の他にも、自筆証書遺言、公正証書遺言の2種類があります。また、種類によって特徴があるため、メリットとデメリットにも違いが生じているのです。
下の表に自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言をまとめたためチェックしてみてください。
費用 | 証人 | 保管場所 | 偽造リスク | |
---|---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 0円、ほとんどかからない | 不要 | 遺言者自身 | あり |
公正証書遺言 | 公証人:数万円~数十万円程度(財産価額による)、証人への支払い | 必要:2人 | 原本:公証人、正本(あるいは謄本):遺言執行者、謄本(あるいは正本):遺言者 | なし |
秘密証書遺言 | 公証人:11,000円、証人への支払い(一人当たり5,000円~10,000円程度) | 必要:2人 | 遺言者自身 | 極めて低い |
秘密証書遺言の作成方法
秘密証書遺言の特徴やメリットを押さえたら、次はいよいよ作成方法について紹介していきます。
作成方法は、遺言内容の作成、遺言書の封書・押印など5つの手順からなります。また、気を付けておきたいポイントも紹介しているため作成時の参考にしてみてください。
遺言の内容を作成する
秘密証書遺言の場合、自筆証書遺言のような作成に関して厳格な要件がありませんが、一定の定められた方式に従う必要はあります。
遺言内容の記載方法は、手書きでもパソコンやワープロを使用しても問題ありません。また、第三者に代筆してもらうことも可能です。ただし、民法により、作成した秘密証書遺言に対して遺言者自身が署名と押印を行わなければいけません。
出典:民法|法務省
遺言書を入れた封筒に封をして押印する
遺言書の内容を書き終えたら、遺言書自身が書面を封筒に入れて押印してください。このとき、押印に使用する印章は、必ず遺言書に押印ものと同じものを使わなければいけません。
法律では、遺言書自身が封筒を封じ、遺言書に用いた印章で押印すると定められています。
出典:民法|法務省
遺言書を公証役場に持参する
遺言書の作成、封書・封印が済んだら、次は証人とともに公証役場に遺言書を持参しましょう。
公証役場で公証人と2人の証人の前に遺言書を提出し、その遺言書が遺言者本人のものであることと、住所と氏名を申述してください。このとき、遺言書の作成者が第三者による場合には、筆者として公証人に氏名と住所を申述する必要があります。
出典:民法|法務省
遺言者と証人が署名押印する
公証人と証人に対し遺言書の提出と申述が終えたら、遺言書の封筒に署名と押印していきましょう。
まず、公証人が封筒に遺言書を提出した日付と遺言書の申述を記載します。そして、遺言者と証人それぞれが封筒に署名・押印すると、秘密証書遺言としての効果が発生します。
遺言書を持ち帰った後は遺言者が保管する
公証役場で秘密証書遺言の手続きが無事に済んだ後は、その遺言書は遺言者自身で保管しなくてはいけません。保管する際には紛失に気を付け、また、他者による隠匿や改ざんなどの被害を受けないように十分に注意することが大切です。
また、公証役場では秘密証書遺言の保管を行うことはできませんが、秘密証書遺言を作成したという記録が残ることにも留意しておきましょう。
秘密証書遺言の作成で注意すべき7つのポイント
秘密証書遺言は、基本的に遺言執行のときまで内容を秘密にできるため、遺言内容や方式に不備があったとしても気づかれず、遺言執行のときを迎えてしまうケースもあります。
ここからは、遺言が無効となってしまわないよう、遺言の作成で注意すべきポイントについて紹介していきます。
- 遺言執行者を指定する
- 財産は明確に記す
- 誰にどの財産をどのくらい渡すか細かく記す
- 「相続」と「遺贈」を使い分ける
- 家族に伝えたいことは付言事項に記す
- 負債がある場合は負担者を指定する
- 可能な限り自筆で記す
1:遺言執行者を指定する
秘密証書遺言を作成する際に、遺言の実行がスムーズに進められるように遺言執行者を指定しておきましょう。
遺言者は、秘密証書遺言でその遺言を執行する人を指定できるだけでなく、遺言執行者の指定を第三者に委託することもできます。委託を受けた人は、すみやかにその旨を相続人に通知しなければいけません。
ただし、未成年者や破産者は遺言執行者となることはできないため注意してください。
出典:民法|法務省
2:財産は明確に記す
秘密証書遺言の場合、その遺言内容について法律の専門家によるチェックを受けることがありません。そのため、遺言内容に記載された遺産に間違いや漏れ、特定不可なケースを避けて、遺産を正しく詳細に記載することが大切です。
たとえば、不動産の場合には登記簿に記載されている内容、預貯金の場合には銀行名・支店名・口座種別・口座番号、株式などの場合には銘柄や株数です。
きちんと遺言が執行されるように、間違いなく書くようにしましょう。
3:誰にどの財産をどのくらい渡すか細かく記す
遺言書に残した財産について記入したら、次はその財産を誰にどの財産を・どの程度与えるのかを詳細に記しておきましょう。財産の分割方法を記すときには、遺留分を侵害しないように注意してください。
全ての財産における相続者と取り分を指定することで、相続人同士のトラブルを防げます。
出典:詳細|法テラス
4:「相続」と「遺贈」を使い分ける
財産の中に不動産がある場合には、きちんと「相続」と「遺贈」を使い分けることが大切です。
相続とは死亡した個人の財産上の権利と義務を、その個人の配偶者や子どもなど一定の身分関係にある人に承継させる制度のことをいいます。
一方、遺贈とは遺言者が死後に所有する財産を人に無償で譲与することをいいます。また、配偶者や子どものような法定相続人はもちろんのこと、血縁関係のない他人も受遺者に選べます。
遺言書を作成する際は法定相続人に相続と遺贈の両方の言葉を使うことが可能ですが、法定相続人に対して「遺贈する」とあった場合は、不動産の登記手続きなどが通常の相続と異なる手続き方法になり、関係各所から許可・承諾を得なければなりません。
5:家族に伝えたいことは付言事項に記す
秘密証書遺言の場合は第三者による代筆を除き、遺言執行のときまでその内容を知らせることはできませんが、直接、遺産相続に関係ないことは付言事項で残すことが可能です。
なぜ遺言を秘密証書遺言にしたのかといった理由や、また残す家族に対しての気持ちなどを遺言で伝えたい人もいるのではないでしょうか。
付言事項を残すことで、遺族は故人の考えや気持ちを知ることができ、不要な相続トラブルを防ぐことにもつながるでしょう。
6:負債がある場合は負担者を指定する
遺産の中には、借入金などの負債があるケースも少なくありません。負債がある場合には、秘密証書遺言にその負担者も指定しておきましょう。財産の取り分を含め、負債の負担者もきちんと決めておくことで相続人同士の争いを避けられます。
7:可能な限り自筆で記す
秘密証書遺言の場合、可能な限り自筆で書くことをおすすめします。秘密証書遺言を自筆で作成していれば、秘密証書遺言の方式を要していなかったとしても自筆証書遺言の方式を具備してることで、自筆証書遺言として有効になるためです。
出典:民法|法務省
弁護士に作成を依頼することもできる
秘密証書遺言は第三者に代筆してもらうことも可能です。秘密証書遺言の作成などに悩んでしまった場合には、弁護士に遺言書の作成をはじめ、管理保管、また検認手続きの代行を依頼することを検討してみてください。
以下で、弁護士に依頼できる内容について詳しくみていきましょう。
作成の際に不備がないようサポートしてもらえる
秘密証書遺言では内容を秘密にするという特性上、書かれた方式に不備があった場合でも遺言執行のときまでチェックや修正を受けることがありません。方式不備によって無効となってしまうケースを避けるため、秘密証書遺言作成のサポートを弁護士にしてもらうのも良いでしょう。
遺言書の保管をしてもらえる
秘密証書遺言は作成後、遺言者自身で保管しなければいけません。そのため、遺言執行のときまでに紛失してしまうケースや、あるいは死後に遺言書が発見されないケースも起きる可能性があります。
不測の事態を防ぐために、弁護士に作成サポートの依頼とともに管理保管もお願いしておくとよいでしょう。
検認手続きを代行してもらえる
秘密証書遺言は、遺言書を発見した人がすみやかに家庭裁判所に届け出て検認手続きを行わなければなりません。また、検認されていない遺言書を開封してしまった場合は過料が課されてしまいます。
実は、この検認の手続きも弁護士に依頼することが可能です。つまり、秘密証書遺言の作成サポート、管理・保管、検認手続きをセットで弁護士に依頼しておくことによって、スムーズに遺言の作成から執行までを行えるでしょう。
出典:民法|法務省
秘密証書遺言について正しく理解しておこう
今回は秘密証書遺言について、その特徴やメリット・デメリット、また作成方法などを詳しく紹介してきました。
秘密証書遺言は遺言内容を秘密にできる代わりに、方式不備による無効や紛失などのリスク、さらに検認手続きの必要性などのデメリットがあります。
秘密証書遺言で遺言を作成する際には、本記事を参考に作成してみてください。
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