
相続において配偶者の立場とは?控除や制度など知っておくべきこと

「相続するとき配偶者の立場はどうなるの?」
「配偶者の相続分を知りたい」
このように亡くなった人の配偶者が、住居や経済的な面について不安を抱えているケースも多いでしょう。
この記事では、相続における配偶者の相続分や法定相続人の範囲、優先順位などについて解説します。また、配偶者の控除や権利なども解説するため、この記事を読めば配偶者が相続に対して抱きがちな大きな不安は解消されるでしょう。
この記事を参考にして相続について理解を深めるとともに、配偶者が少しでも安心して過ごせるよう、配偶者の立場について知識を得ておきましょう。
相続において配偶者の立場とは
民法では、被相続人が亡くなったとき、その配偶者は常に法定相続人になると定められています。そして子供や親、兄弟姉妹が相続人になる場合には、配偶者と共同で相続することになるでしょう。
このように、相続における配偶者は無条件で法定相続人となる重要な立場にあります。
出典:民法|e-Gov法令検索
配偶者が相続や贈与で知っておくべきこと
自分の配偶者が被相続人となる場合、配偶者の相続や贈与についての知識を持っておくことが必要です。配偶者に課せられる相続税や権利などは、配偶者自身にとって重要なポイントとなります。
また、被相続人は自分の死後に配偶者が困らないように制度や権利などを理解しておくと良いでしょう。ここからは、配偶者が相続や贈与で知っておくべきことを紹介します。
配偶者控除
配偶者控除とは、被相続人の配偶者が受けられる控除のことです。被相続人の遺産を配偶者が相続する際、配偶者控除により配偶者の法定相続分あるいは1億6,000万円のどちらか多い方まで相続税はかかりません。
これは、被相続人の財産形成に配偶者の貢献があったことを考慮されるべきであることや、残された配偶者の生活を保障することなどの理由から設けられています。
配偶者居住権
配偶者居住権とは、配偶者が被相続人の財産に属した建物に居住している場合に、継続して無償でその建物に居住し続けられる権利のことです。
この権利は平成30年の相続法改正によって新設されました。配偶者が相続トラブルによってこれまで住み慣れた家を失うことは大きな損失であるため、被相続人が亡くなったときに配偶者が住む場所に困らないように設けられました。
出典:民法|e-Gov法令検索
おしどり贈与
夫婦の間で住居の贈与、または住居購入費用の贈与が行われる場合、最高2,000万円まで控除できる特例が「おしどり贈与」です。
このおしどり贈与が適用されるのは婚姻期間が20年以上の夫婦であること、贈与されるのが居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭であること、などの条件があります。
制度は内縁の妻や離婚した元妻に当てはまるのか?
前述した配偶者控除や配偶者居住権、おしどり贈与などの制度や権利には法律上の婚姻関係が必要です。
そのため、いわゆる内縁の妻や事実婚の相手などは対象となりません。また、離婚した元妻も法律上それらの権利が認められないことになります。
配偶者以外の法定相続人とその順位
法定相続人は配偶者だけでなく、それ以外の関係性の人も法定相続人となり得ます。
ここからは、民法で定められている配偶者以外の法定相続人とその順位について見ていきましょう。なお、ここで述べる法定相続人の範囲や順位は、被相続人が予め「遺言書」を残していなかった場合に当てはまります。
直系の子供
被相続人の直系の子供は、第1順位で法定相続人となります。被相続人に複数の子供がいる場合は、全員が第1順位で法定相続人になり優劣はありません。
また、被相続人の相続開始以前に子供が亡くなっている場合は、孫が第1順位で法定相続人に該当し、これを代襲相続人といいます。さらに、相続の開始時点で胎児である場合も直系の子供とみなされます。
出典:民法|e-Gov法令検索
被相続人の親
被相続人の親は、第2順位で法定相続人になります。つまり、被相続人に第1順位で法定相続人になる子供が1人もおらず、かつその代襲相続人もいない場合は被相続人の父母が法定相続人になります。
親がすでにおらず祖父母が生存している場合は、祖父母が第2順位で法定相続人に該当するでしょう。ただし、父母のように親等が同じ者が複数いる場合は共同で相続人となり、親等の異なった者が混在している場合は親等が近い人が優先されます。
出典:民法|e-Gov法令検索
被相続人の兄弟
被相続人の兄弟は、第3順位で法定相続人になります。被相続人に、子供がおらず両親がすでに亡くなっており、第1順位・第2順位で法定相続人になる人がいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。
また、被相続人の兄弟が亡くなっている場合は、やはり代襲相続人として甥や姪が第3順位で法定相続人に該当するでしょう。兄弟姉妹が複数いる場合は共同相続人となります。
出典:民法|e-Gov法令検索
養子縁組をしている配偶者の連れ子は?
相続において、実子と養子(養子縁組をした連れ子)の区別はありません。養子縁組をしていれば、配偶者の連れ子でも実子と同様に第1順位で法定相続人になります。
ただし、養子縁組していない連れ子に相続権はありません。
法定相続分のパターンと割合
配偶者は常に法定相続人になり、被相続人の親族構成に応じて配偶者以外の法定相続人とさまざまな割合で分割して相続することになります。
なお、民法に定める法定相続分(相続できる割合)は、相続人の間で遺産分割の合意がそろわなかった場合の取り分です。それぞれが合意できれば、どのような分割方法でもかまいません。
ここからは法定相続分のパターンと相続分を見ていきましょう。
配偶者と子供の組み合わせ
常に法定相続人になる配偶者と、第1順位で法定相続人になる子供がいる場合、それぞれの相続分は遺産全体の2分の1ずつとなります。子供が複数いる場合は、その2分の1を子供全員の人数で均等に割った分が相続分です。
また、被相続人の亡くなった子供の代わりに孫が法定相続人になる場合は、子供と同様の相続分を引き継ぎます。
出典:民法|e-Gov法令検索
配偶者のみであるとき
法定相続人が配偶者のみである場合は、配偶者が遺産のすべてを相続することになります。たとえば、被相続人に子供がおらず、相続の時点で被相続人の両親・祖父母がすでに亡くなっており、さらに兄弟姉妹もいない場合が該当します。
ただし、内縁関係の配偶者は法定相続人となりません。
出典:民法|e-Gov法令検索
配偶者と兄弟の組み合わせ
配偶者と相続順位がもっとも低い被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になる場合は、配偶者が遺産全体の4分の3を、兄弟姉妹で4分の1を受け取ることになります。
複数の兄弟姉妹がいる場合は4分の1を均等に分割します。
出典:民法|e-Gov法令検索
配偶者と父母の組み合わせ
配偶者と第2順位で法定相続人になる被相続人の両親がいる場合は、配偶者の相続分は遺産全体の3分の2、両親の相続分は3分の1となります。
被相続人の父母がともに健在の場合は3分の1を均等に分割し、それぞれ6分の1ずつが相続分です。
出典:民法|e-Gov法令検索
配偶者のみが遺産を相続するケース
先に述べたように、配偶者のみが法定相続人となる場合はすべての遺産を相続します。ただし、配偶者だけが遺産を相続するのはさまざまなパターンが考えられます。
ここからは、配偶者だけが遺産を相続するケースを見ていきましょう。
遺言により配偶者のみを指定いている
子供など法定相続人に該当する者がいながら、遺言によって配偶者のみが指定されているため、配偶者が遺産をすべて相続することになるケースがあります。
ただし、この場合は法的に認められた最低限の遺産の取り分である「遺留分」に注意する必要があります。たとえ、被相続人が遺産をすべて配偶者に相続させたいという意思があり、遺言としてそれを指定したとしても、 遺留分を請求される可能性はあるでしょう。
なお、遺留分を請求できる権利を持つ者は、被相続人の子供と両親です。
法定相続人に該当する者が配偶者しかいない
前述したとおり、被相続人に子供がおらず、相続開始時点で両親・祖父母が他界しており、兄弟姉妹もいない場合の法定相続人は配偶者のみです。
子供がいない夫婦は配偶者がすべて相続すると思われがちですが、両親・祖父母、兄弟姉妹の存在の確認も必要です。
配偶者以外の相続人が相続放棄をしている
配偶者以外の法定相続人が相続放棄をしている場合も、配偶者のみが遺産を相続します。相続放棄の手続きをした人は、初めから相続人ではなかったとみなされます。
一方で、遺産放棄した場合、相続権は次順位の者に移行するため注意が必要です。相続権を放棄した被相続人の子供がそれを次順位の者に移行させたくない場合は、「相続分譲渡」を行うと良いでしょう。
相続分譲渡とは自分の相続分を有償で譲渡することです。相続分譲渡は、遺産分割の手続きに時間がかかってしまうため、すぐに現金が必要で遺産分割協議を待てない場合にも使えます。
配偶者のみが相続する場合に注意すべきこと
被相続人が配偶者のみに遺産を相続させたいと考えるケースもあるでしょう。しかし、被相続人が亡くなった後、相続トラブルや税金上の負担などさまざまな問題が考えられます。
配偶者のみが相続する場合に注意すべきことについて、事前に確認しておくことをおすすめします。
2次相続のときの相続税が多くならないよう注意する
前述したとおり、配偶者が遺産を相続する場合、配偶者控除によって相続税の負担が軽くなります。しかし、配偶者以外はこの控除を受けられないため、次の相続(2次相続)の際に相続人が多大な相続税の負担に苦しむことになりかねません。
一般的に配偶者は被相続人と同世代であるため、2次相続は比較的早い時期に発生する可能性が高いでしょう。1次相続の時点で2次相続を見据えて、相続分の配分を考えておくことが重要です。
直系の子供がいない場合も遺留分に注意する
前述したとおり、配偶者だけに財産を残すために被相続人が遺言書を作成した場合でも、被相続人の子供と両親は遺留分を請求できる権利があります。
被相続人に直系の子供がいないと忘れがちですが、父母も法定相続人に該当し遺留分を請求する権利があることに注意しておきましょう。なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分を請求する権利はありません。
相続での配偶者の立場を理解しておきましょう
被相続人の配偶者が遺産を相続する際は、配偶者が受けられる控除や権利などを使い、なるべく負担やリスクの少ない方法を選択しましょう。そのためには、 相続に関する法律だけでなく税金に関する知識も必要になります。
この記事を参考に相続の知識を学んだり、知識のある人に相談したりしながら、配偶者の立場を理解しておきましょう。
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