
在職老齢年金とは?年金が減額する「50万円の壁」の計算、年金停止額早見表もご紹介!

・働きながら年金受給する制度「在職老齢年金」とは?
・年金受給者は働いたら損をする?
・年金が減額・停止する月額収入はいくらから?
在職老齢年金制度とは「年金+給与」が一定の基準額を超える場合、年金額が減額、もしくは停止するという、年金が減らされる仕組みです。
この制度が2024年4月、年金減額の基準額が変更されました。
そのため6月に振り込まれる年金額が上がっている方も多かったのではないでしょうか。
「年金受給者は働いたら損」と考える方々も多いのですが、そうとも限りません。
在職老齢年金制度の仕組みを正しく理解して、賢く働くことが損をしないポイントです。
「在職老齢年金制度」とは

◇年金と給与の合計が基準額を超えた場合に、年金額が減額・停止される制度です
「在職老齢年金制度」は、60歳以降に働きながら年金をもらう人々が、給与と年金の合計額により、年金の支給額が減額、もしくは停止されてしまう仕組みを指します。
そのため下記のような条件下で働く、60歳以上の人々が理解したい制度です。
<在職老齢年金とは> | |
①在職老齢年金制度 | ●年金+給与>一定の基準額 ・年金の一部をカット ・年金の支給停止 |
②適用する人々 | ・60歳以上 ・年金を受給している ・厚生年金に加入している (60歳以上で会社に勤めている) |
会社に勤めながら給与をもらう人々に対して適用する制度なので、厚生年金に加入して働いている人が対象となります。
・厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方]第10在職老齢年金・在職定時改定」
年金受給年齢は原則65歳では?
◇60歳から年金の繰り上げ受給が選択できるためです
2024年現在では基本的に年金の受給開始年齢は65歳ですが、60歳からは年金受給開始年齢を繰り上げる「繰り上げ年金」が適用します。
そして60歳へ繰り上げて年金受給をする場合、60歳~65歳までの年金は「特別支給」と呼ばれ、この「特別支給」期間の年金も在職老齢年金の対象です。
停止・減額分は、後で戻ってくる?
◇年金の支給停止に適用した場合、後から支給はありません
在職老齢年金制度では、月額収入が一定の基準額を超えた場合に「減額」「支給停止」と言っています。
そのため、「後で改めて申請手続きを行えば、いずれ損した分の年金が戻ってくる」との勘違いも多いのですが、一度減額・支給停止に至った年金は戻ってくることはないので注意をしてください。
2024年、在職老齢年金制度の改正!

◇2024年より年金の減額・停止の基準額が緩和されました
在職老齢年金制度のなかで最も気になる数字は、「年金+給与」の合計がいくらになったら年金減額・支給停止になるのか?、「一定の基準額」ですよね。
この「一定の基準額」が、2024年度の年金改正により、緩和されました。
2022年3月以降に適用されていた基準額は、60歳~64歳で月額28万円、65歳以上で月額47万円を超えると、年金が減額される仕組みでした。
ただ月額28万円では、「豊かな生活」にはほど遠いとも言われ、労働意欲が削がれる問題があったためです。
実際にこの時期、在職老齢年金制度により、老齢厚生年金を受給していた65歳以上の人々のなかで、17%もの人々の年金が支給停止措置を受けました。
このことにより、全国的に減額・停止した年金額の合計は約4,500億円だったとされます。
2022年4月以降、年金改正が変わったこと
「給与」はどこまで?在職老齢年金の仕組み

◇在職老齢年金の基準額は、振込額(手取り額)では計算しません
在職老齢年金制度は「給与+年金」が月額50万円を超えると、年金の減額、もしくは支給停止になる制度だと言うことはお話しました。
この「給与+年金」は正確には「総報酬月額相当額(給与)+基本月額(年金)」です。
ただ年金の「基本月額(年金)」は、銀行に振り込まれる年金の振込額ではありません。
そして「総報酬月額相当額(給与)」も、手取り額ではないので、そのことを踏まえて計算をします。
・日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
「基本月額(年金)」とは?
◇ねんきん定期便の右枠「報酬比例部分」を指します
65歳からほとんどの人々が老齢年金を受給しますが、その内訳は「老齢厚生年金+老齢基礎年金」です。
そのなかで「老齢厚生年金」は、加給年金・報酬比例部分・経過的加算、の3つの構成になっており、基本月額(年金)はこのなかの「報酬比例部分」にあたります。
そのため「報酬比例部分」が老齢厚生年金制度における年金対象です。
また月額50万円の基準額を超えた時の減額対象になる年金も、「報酬比例部分」が対象となります。
50歳以上の人々に届く「ねんきん定期便」では、中央右枠のなかに「報酬比例部分」の数字が記載されるので、現物をお持ちの方は確認をしてみてください。
「給与」の範囲はどこまで?
◇月額報酬の平均額と、賞与の1/12を足した金額です
在職老齢年金制度における給与は「総報酬月額相当額」ですが、この内訳は下記のような計算方法になります。
ここで「標準報酬月額」は、毎月もらっている給与の平均額であり、一般的に年はじめの4月~6月、3か月間の給与から平均額を出します。
この給与には基本給・役職などの諸手当・残業代・通勤手当など、全てを含めた「給与」から平均額を出す計算となり、一度決まったら1年間は変わりません。
(大きな昇給・減給があった場合は、その時点からの3か月分で再計算します。)
また「標準賞与額」とは、税込みの賞与金額から千円未満の端数を切り捨てた金額です。
この賞与の金額を12か月で割り、月額収入に含めて計算します。
給与を計算する際に、手取り額・振り込み額を確認する人も少なくありませんが、在職老齢年金制度においての「給与額」はどちらも違うので、注意が必要です。
年金停止月額の計算例
◇山本さん標準報酬月額は「平均月額38万円+賞与1か月7万円=45万円」でした
…それでは、山本さんの計算例を詳しく解説していきます。
66歳の山本さんは2024年4月~6月の3か月、給与(月額報酬)は37万円~39万5千円、3か月の平均月額は38万円でした。
「直近1年間の標準賞与額」は前年度の2023年~2024年6月分までとして計算します。
山本さんは2023年12月に398,600円、2024年6月に44万2,800円の賞与を受け取りました。
在職老齢年金の計算では千円未満は切り捨てるため、「(39万8,000円+44万2,000円)÷12か月」の計算です。
「直近1年間の標準賞与額」は年額84万円÷12か月で月額7万円が、標準報酬月額にプラスされ、山本さんの総報酬月額相当額は、45万円になりました。
給与明細から「標準報酬月額」を見るには?
◇「標準報酬月額」は厚生年金保険料から逆算できます
給与明細に「標準報酬月額」は記載されていませんが、給与明細の厚生年金保険料の情報から逆算することで、自分の標準報酬月額を確認できるでしょう。
厚生年金保険料の金額は18.3%ですが、保険料は会社と本人で折半します。
そのため18.3%の半分として、本人の保険料率は9.15%です。
そのため「標準報酬月額」は厚生年金保険料の9.15%を掛けた金額になります。
例えば、厚生年金保険料が3万4,770円では「3万4,770円×100÷9.15」の計算式になり、標準報酬月額は、38万円です。
在職老齢年金制度は副業収入も入る?
◇厚生年金に加入していない報酬は加算されません
在職老齢年金制度は厚生年金に加入している人々の収入を対象にしているため、副業収入は含まれません。
具体的には、厚生年金に加入していない環境でのアルバイト・パート収入、自営業・フリーランスによる収入、家賃収入なども、標準月額報酬の適用外です。
在職老齢年金の注意点

◇年金支給が停止すると、加給年金もなくなってしまいます
「加給年金」とは、老齢厚生年金に付加している制度です。
老齢厚生年金(報酬比例部分)を一部でも受給している人々は、65歳以下の配偶者がいる場合に、加給年金も受け取ることができます。
けれども在職老齢年金制度により、老齢厚生年金の支給停止があった場合には、加給年金も受け取ることができません。
そもそも「加給年金」とは?
◇年金制度の「家族手当」に近い役割です
老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給者に、65歳以下の年下の配偶者がいる場合、年間40万8,100円の金額(内訳「老齢厚生年金+老齢基礎年金」)が加算されます。
配偶者が65歳を超えると加給年金は支給停止となりますが、代わる「振替加算」に切り替わり支給され、その内訳は「振替年金+老齢基礎年金」です。
この振替年金は、65歳以上の配偶者が亡くなるまで、支給されます。
ただし加給年金、及び振替年金を受給するにあたり、いくつかの条件もあるので、コチラも確認をしてください。
・「加給年金」とは?受給する妻の条件は?2022年の年金改正で廃止になった対象者は?
在職老齢年金で減額を受ける事例

◇50万円を超えた月額の半額が減額されます
在職老齢年金制度により厚生年金が減額される場合には、「年金+給与」が基準額50万円を超えた部分の半額が減額対象です。
山本さんの事例では総報酬月額相当額(給与)が45万円でした。
山本さんの年金は「基礎年金6万円+厚生年金15万円」、在職老齢年金は厚生年金に適用する制度ですから、上乗せされる基本月額は、厚生年金の15万円にあたります。
<山本さんの計算事例> | |
[山本さんの条件] | |
●総報酬月額相当額(給与)…45万円 ●年金 ・厚生年金…15万円 ・基礎年金…6万円 (合計21万円) |
|
[計算式] | |
・総報酬月額相当額(給与)45万円+基本月額(厚生年金)15万円=60万円 ・(60万円-基準月額50万円)÷2(半額)=5万円 ・(厚生年金15万円-5万円)+基礎年金6万円=16万円 |
以上の計算により、山本さんは厚生年金の減額対象が5万円、山本さんが毎月受け取る年金総額は16万円の計算です。
年金支給が停止される事例とは?
◇「(総報酬月額相当額(給与)-基準額50万円)>基本月額(年金)」の事例です
在職老齢年金制度を恐れている人々のなかには、給与と年金額の合計が基準額50万円を超えると、すぐに年金支給が停止してしまうと勘違いしている人も少なくありません。
けれども実際には、山本さんのように減額対象であることがほとんどです。
年金支給が停止される事例は、総報酬月額相当額(給与)から50万円を差し引いても、基本月額(年金)よりも受け取る金額が多い事例になります。
例えば、山本さんの事例で厚生年金が15万円だった場合、「基準額50万円+基本月額(年金)15万円=65万円」の計算で、65万円以上の総報酬月額相当額(給与)になった時点で、年金支給が停止されるでしょう。
在職老齢年金による減額・年金停止額早見表は?
◇総報酬月額相当額(給与)は減額→年金支給停止の段階です
このように基本的に基準額50万円を差し引いても、厚生年金の基本月額よりも上回らない限り、年金支給が停止されることはありません。
ただ一定基準を超えると厚生年金の支給額が減額されるため、給与をいただく契約前に「働くことで損をしないか?」確認をしたいですよね。
下記は在職老齢年金制度による厚生年金支給額の減額・停止額の早見表です。
横軸が基本月額(年金支給月額)、縦軸が総報酬額相当額(給与)となるので、参考にしてください。
5万円 | 8万円 | 10万円 | 13万円 | 15万円 | 18万円 | 20万円 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
27万円 | 5万円 | 8万円 | 10万円 | 13万円 | 15万円 | 18万円 | 20万円 |
30万円 | 5万円 | 8万円 | 10万円 | 13万円 | 15万円 | 18万円 | 20万円 |
33万円 | 5万円 | 8万円 | 10万円 | 13万円 | 15万円 |
17.5万円 (0.5万円) |
18.5万円 (-1.5万円) |
36万円 | 5万円 | 8万円 | 10万円 | 13万円 |
14.5万円 (-0.5万円) |
16万円 (-2万円) |
17万円 (3万円) |
39万円 | 5万円 | 8万円 | 10万円 |
12万円 (-1万円) |
13万円 (-2万円) |
14.5万円 (-3.5万円) |
15.5万円 (4.5万円) |
42万円 | 5万円 | 8万円 |
9万円 (-1万円) |
10.5万円 (-2.5万円) |
11.5万円 (-3.5万円) |
13万円 (-5万円) |
14万円 (6万円) |
45万円 | 5万円 |
6.5万円 (-1.5万円) |
7.5万円 (-2.5万円) |
9万円 (-4万円) |
10万円 (-5万円) |
11.5万円 (-6.5万円) |
12.5万円 (-7.5万円) |
48万円 |
3.5万円 (-1.5万円) |
5万円 (-3万円) |
6万円 (-4万円) |
7.5万円 (-5.5万円) |
8.5万円 (-6.5万円) |
10万円 (-8万円) |
11万円 (-9万円) |
51万円 |
2万円 (-3万円) |
3.5万円 (-4.5万円) |
4.5万円 (-5.5万円) |
6万円 (-7万円) |
7万円 (-8万円) |
8.5万円 (-9.5万円) |
9.5万円 (-10.5万円) |
54万円 |
0.5万円 (-4.5万円) |
2万円 (-6万円) |
3万円 (-7万円) |
4.5万円 (-8.5万円) |
5.5万円 (-9.5万円) |
7万円 (-11万円) |
8万円 (-12万円) |
57万円 |
0.5万円 (-7.5万円) |
1.5万円 (-8.5万円) |
3万円 (-10万円) |
4万円 (-11万円) |
5.5万円 (-12.5万円) |
6.5万円 (-13.5万円) |
|
60万円 |
1.5万円 (-11.5万円) |
2.5万円 (-12.5万円) |
4万円 (-14万円) |
5万円(-15万円) | |||
63万円 | 全額支給停止 |
1万円 (-14万円) |
2.5万円 (-15.5万円) |
3.5万円(-16.5万円) | |||
66万円 |
1万円 (-17万円) |
2万円 (-18万円) |
|||||
69万円 |
0.5万円 (-19.5万円) |
||||||
70万円 |
前述したようにフリーランスや個人事業主、厚生年金に加入していない形態の副業でしたら、総報酬額相当額に含まれないため、何らかの事情で多くの稼ぎが必要な場合には、副業との複合も検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ:在職老齢年金制度を理解し、賢く働きましょう

2024年の年金改正により在職老齢年金制度が緩和され、60歳以上で働きながら年金を受給する人々が、より働きやすい環境となりました。
今後も在職老齢年金鮮度の緩和は進むことが予想されます。
また、しばしば在職老齢年金制度により受け取る年金額が減額されるため、年金受給年齢を繰り下げることを検討する方もいますよね。
確かに繰り下げることで年金の増額は見込めますが、在職老齢年金制度により減額された年金部分に関しては増額対象にはなりません。
また60歳~65歳に適用する「特別支給の老齢厚生年金」には、繰り下げ制度が適用しないので、この点を理解して繰り下げ年金を検討するのは良いでしょう。
在職老齢年金制度による年金の減額や停止で損をしないための、年金をもらいながら働く方法や、働きながら年金を受給している人々の所得税や住民税に関しては、下記コラムをご参照ください。
・年金はいくらから税金がかかる?働きながら年金受給する住民税・所得税は?確定申告は?
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