
【遺言書】作成前に知っておくべき遺留分の制度|効力や対処方法を解説

「遺言書があれば遺留分を気にしなくてもいい?」
「遺言書を作成するにあたり遺留分の制度について知りたい」
「遺言書に遺留分を侵害されたらどうすればいい?」
遺言書と遺留分の制度について詳しく知りたいという人もいるのではないでしょうか。
本記事では遺言書の効力や作成方法、遺言書作成前に知っておくべき遺留分の制度などについて詳しく解説しています。記事を読むことで遺言書の種類や効力、遺留分の制度について詳しく知ることができるでしょう。
また特定の人に相続させたい場合の遺留分対策や遺留分を侵害された場合の対処法についても併せて解説しています。
後々のトラブルを避けるため、遺言書と遺留分の関係について詳しく知りたいという人は是非参考にしてみてください。
遺言書にはどんな効力があるの?
遺言書の効力にはさまざまなものがありますが、その中でも代表的な効力として相続財産の分け方を決められるということが挙げられます。
特定の相続人に多めに遺産を渡したい場合や、相続人ではない人に遺産を渡したいという場合に遺言書で意思表示をすることが有効です。
遺言書の具体的な効力は以下のようなものがあります。
・財産を誰にどのくらい相続させるかを指定する
・特定の相続人が持つ相続権を奪う
・遺産の分け方を指定する
・特別受益の持ち戻しを免除する
・非嫡出子を認知して相続人にする
・親権者のいない未成年者の後見人を指定する
・仏壇などを守る人を指定する
普通方式と特別方式の遺言書の違いとは?
遺言には大きく分けると普通方式と特別方式の遺言があります。特別方式の遺言は死期が迫っていたり、社会から隔離されていたりするなどの特別な状況下で作成されるものです。
それに対し普通方式の遺言は一般的に利用される遺言書で、作成するために時間をかけることができます。普通方式で遺言を作成するのでは間に合わないと考えられる場合に、特別方式の遺言が利用されます。
特別方式の遺言には条件により有効期限がありますが、普通方式の遺言には有効期限がありません。
普通方式の遺言書の作成方法
普通方式の遺言書には3種類あります。
普通方式の遺言書を作成する際には、正確で明確な手続きが必要です。以下に、一般的な手順をご案内いたします。ただし、個別の法律や地域によって要件が異なる場合があるため、専門家の助言を求めることをおすすめします。
それぞれ作成方法が決まっているため、ここでは普通方式の遺言書の作成方法について見ていきましょう。
秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言は、民法 第九百七十条に基づき作成される遺言書の一種です。
遺言者自身が内容を記載し、証書に署名と押印を行います。その後、証書を封筒に入れ、証印で封をします。遺言の存在を公証役場で確認するために、公証人と2名の証人が必要です。最後に、公証人が遺言を確認し、遺言者・公証人・証人が封書に署名と押印をします。
秘密証書遺言として認められるためには、これらの要件を満たす必要があります。公証人と2名の証人の存在も重要ですので注意してください。
公正証書遺言の場合
遺言書が確実にあることを明らかにしたい、また、相続開始時まで確実に保管したい場合は「公正証書遺言」の作成が選択肢になるでしょう。
・証人2名以上が遺言に立ち会うこと
・公証人に遺言者が遺言内容を口頭で伝える
・公証人が遺言内容を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧する
・確認後遺言者、証人、公証人が署名・押印する
証人が2名以上必要なこと、遺言書は公証役場で保管されることに注意してください。もし遺言者本人の署名が困難な場合は、公証人が事由を付記することで署名に代えられます。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言は自分で作成できる手軽な遺言書ですが、民法 第九百六十八条(自筆証書遺言)の方式に従って作成する必要があります。
・遺言者本人が内容および日付・氏名を記載し押印する
・遺言書に付ける遺産目録は自筆でなくても構わないが、全てのページに署名・押印が必要
自筆証書遺言は簡単に作成できますが、自筆かつ上記の要件を満たす必要があります。
遺言書を作成する前に知っておきたい遺留分の制度
遺留分とは一定範囲の相続人に対し、遺言によって奪われることのない遺産の一定の割合について、相続する権利を保障するものです。そのため、遺言書を作成する際には、遺留分に対する配慮が必要となります。
ここでは遺言書を作成する前、知っておきたい遺留分の制度について詳しく解説するため、参考にしてみてください。
出典|参照:遺留分とは何ですか?|法テラス
相続人の権利である遺留分を完全に奪うことはできない
相続人の権利である遺留分は、完全に奪うことはできません。遺留分制度は、相続人の最低限の権利を保護するために存在します。
遺留分とは、相続人が法定相続分よりも少ない相続財産を受け取る権利のことです。この制度は、相続人の権益を守り、不公平を防ぐために設けられています。遺留分制度によって、相続人は遺産分割の際に一定の財産を確保することができます。
したがって、遺留分を完全に奪うことは法的に認められず、相続人の権利を尊重する必要があるでしょう。
出典|参照:遺留分って何?|弁護士法人琥珀法律事務所
相続人によって遺留分の割合が違う
遺留分は相続人全てに認められている訳ではありません。また相続人によって、遺留分の割合も異なります。
遺留分を主張できるのは配偶者や子、孫、父母、祖父母です。相続人が直系尊属のみである場合、遺留分の割合は3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。相続人が複数いる場合にはこれらに法定相続分を乗じて計算します。
特定の人に相続させたい場合の遺留分の対策
相続人の権利である遺留分を奪うことはできませんが、特定の人に多くの財産を相続させたい場合には生前に対策が必要でしょう。
ここでは特定の人に相続させたい場合の遺留分の対策について解説します。
生きている時に相続人と話し合う
特定の人に相続させたい場合、後から遺留分トラブルが起こらないように生前のうちに遺言書の内容について相続人全員で協議し、納得してもらっておくという方法もあります。遺言書作成時に相続人全員の理解を得ていれば、後から揉める可能性は低くなるでしょう。
遺産を相続させたくない相続人がいる場合には、相続人と話し合って遺留分の放棄をしてもらうという方法もあります。
被相続人の生前に遺留分放棄の手続きをするには、相続人本人が家庭裁判所に申し立てて許可をもらう必要があります。
出典|参照:遺留分放棄の許可|裁判所
遺留分請求をする財産の指定をしておく
特定の人に相続させたい場合、遺留分請求をする財産の指定をしておくのも有効です。
例えば、妻に家と預貯金を相続させたいと思います。そこで子どもが遺留分として、家を共有したいと主張した場合、妻に家が残せない可能性があります。
このような場合、予め遺留分請求する財産を預貯金から財産としておくことで、預貯金から返還され、家を守れる可能性が高くなります。
遺留分請求をする財産の指定をしておかなければ、預貯金・不動産の何パーセントというようにそれぞれの価格に比例して、同時に変換することになるため注意しましょう。
出典|参照:【遺言による遺留分の負担(減殺される財産)の順序の指定(改正前後)】|弁護士法人みずほ中央法律事務所 司法書士法人みずほ中央事務所
付言事項としてメッセージを残す
確実な方法ではありませんが、遺言書の付言事項に遺留分を侵害された相続人に向けてメッセージを残しておくという方法もあります。
どうして遺留分を侵害するような遺言になっているのか、その理由を述べて理解を求めるという方法です。付言事項に法的効力はありませんが、感情に訴えることで遺留分が侵害されていることを受け入れてくれる可能性はあるでしょう。
どうしてそのような遺言になったのか、理由やトラブルを望まないことを記しておきましょう。
資金を確保しておく
遺留分トラブルを防ぐことが難しいと考えた場合、予め遺留分の支払いに備えて、現金化しにくい不動産だけでなく、現金や預貯金を財産として残しておきましょう。
財産を相続させた人が遺留分を請求された時に、相続した財産が不動産だけではなかなか遺留分の金銭を支払えない可能性があります。そこで現金や預貯金を残し、請求があったらすぐに支払えるようにするという対策です。
養子縁組を行う
遺言書が相続人の遺留分を侵害しないように、遺留分自体を減らすことを検討してみましょう。養子縁組を行うことで遺留分の権利を持つ相続人を増やせば遺留分の額を減らすことができます。
例えば、多めに財産を残したい子どもがいる場合は、その子の配偶者または子(孫)を自分の養子にします。相続人が増えるため、その他の相続人の遺留分が減るでしょう。
養子縁組を行い遺留分割合を減らせば遺留分侵害額を減らすこともできるため、遺留分対策として有効だと言えます。
相続財産を減らしておく
相続財産そのものを減らしておくことも遺留分対策として有効です。相続財産を減らしておけば相続人が受け取れる遺留分の額も減ることになります。
もし特定の相続人に遺産を多く残したいという場合には、その相続人を受取人に指定して生命保険に加入するというのも一つの方法です。
毎月保険料を支払うことで実質的にその財産を少しずつ受取人に譲渡することができ、相続財産も減少するため他の相続人の遺留分は減ることになります。
遺言執行者を選任しておく
遺言執行者として、弁護士や司法書士といった専門家を選任しておくのも一つの手です。
もし特定の相続人を遺言執行者に選任した場合、他の相続人の遺留分侵害が発生していた際には余計に不公平だ、とトラブルになる可能性があります。しかし弁護士や司法書士といった専門家が遺言執行者であれば、そういった感情を抱く可能性が低くなるでしょう。
確実に遺留分トラブルを防げる訳ではありませんが、法律の専門家に諭されることで、かたよった遺言でも受け入れやすくなる可能性もあります。
遺言書に遺留分を侵害された場合はどう対処すればいいの?
遺言書によって、自分の遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求をすることができます。
ただし、遺留分侵害額請求権は相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があった時から1年以内に行使しなければ時効によって、消滅してしまうため注意が必要です。また相続開始を知らなかったとしても相続開始から10年で権利が消滅します。
遺留分侵害額請求の手続きを行う手順
実際に自分の遺留分を侵害された場合、どのようにして遺留分侵害額請求の手続きを行えばよいのか知りたいという人もいるでしょう。
ここでは遺留分侵害額請求の手続きを行う手順について詳しく解説します。
財産や相続人を調べる
遺留分侵害額請求を行う前に、まずどのような財産があるのか、相続人は誰かなどを調べることが必要です。また、遺言の内容や贈与の有無などについても確認しなければなりません。
相続財産はそれぞれの財産によって調べ方が異なります。資料が足りない場合には相続財産を管理している人に対してその内容を開示するよう求める場合もあるでしょう。また相続人については戸籍を取り寄せて調べます。
遺留分侵害額請求の通知を送る
遺留分侵害額請求を行う場合、その方法について法律上特に定めはありません。そのためまずは遺留分侵害額請求をする旨の意思表示を相手方にする必要があります。
意思表示は口頭でも可能ですが、権利行使をした証拠を残すために内容証明郵便を利用して遺留分侵害額請求の通知を送るのが一般的です。
話し合いをする
遺留分侵害額請求の通知を送り、意思表示をした後は、相手方と話し合いをすることになります。もし話し合いをする中で、揉めごとや争いが生じる可能性がある場合には、書面のやり取りや話し合いを録音しておくなど、記録化をしておいた方が良いでしょう。
話し合いがまとまれば、後に紛争が生じることのないよう、和解書や合意書などの形で話し合いの内容を書面に残しておきます。可能であれば、公正証書にしておくのがおすすめです。
話し合いがまとまらない場合は調停や訴訟を行う
話し合いがまとまらない場合は、調停や訴訟を行うことになります。遺留分侵害額請求は原則として、いきなり訴訟を行うのではなく、家庭裁判所で調停をしなければなりません。
家庭裁判所に調停の申し立てをして、当事者間で話がまとまれば、裁判所書記官により調停調書が作成されます。
しかし、調停でも話がまとまらなければ、地方裁判所に訴状を提出して、遺留分侵害額請求訴訟の提起をすることになります。
出典|参照:遺留分(侵害額請求)|LSC綜合法律事務所
遺言書を作成するなら遺留分の制度について知っておこう
遺言があれば遺留分を考慮しなくてはいいのではと勘違いする方もいらっしゃるでしょう。
しかし遺言書があるから遺留分を請求できない、あるいは遺言書があれば遺留分について心配する必要がない、といったことはありません。遺言書が有効であっても、相続人は遺留分侵害額請求を起こすことができます。
遺留分トラブルを起こさないように、予めとれる対策もあります。遺言書を作成するならこの記事の内容を参考に事前に遺留分の制度について知っておきましょう。
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