遺留分の放棄とは?他の相続との違いや生前の手続き方法と注意点を解説
「遺留分ってどういうもの?」
「遺留分を放棄した場合、他の相続人にどんな影響がある?」
「遺留分の放棄を行うときの具体的な手続き方法って?」
このように、遺留分の放棄の方法や他の相続との違いなどを知りたいと考えている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、遺留分の概要や遺留分を放棄した場合に他の相続人に与える影響、遺留分を放棄するときの注意点などを紹介しています。この記事を読むことで、遺留分の放棄について理解を深めることができるでしょう。
また、遺留分放棄の手続きの方法や、遺留分放棄の申し立て方法と流れなども紹介するため、具体的な遺留分放棄の方法を知りたい人も参考にできます。
遺留分の放棄について知りたい人は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
遺留分とは?
遺留分とは、被相続人の遺族の最低限の生活を守るために設けられた一定割合の遺産の留保分です。遺留分はたとえ被相続人の遺言があったとしても、侵害することはできません。
また、遺留分が認められる相続人は、被相続人の配偶者や子、被相続人の父母、祖父母などの直系尊属です。遺留分は、相続人の中でも被相続人の兄弟姉妹については認められていません。
出典|参照:民法 第九章 遺留分 | e-Gov法令検索
遺留分の放棄とは?
遺留分の放棄とは、遺留分の権利を自らの意思で手放すことです。相続の開始が行われる前であれば、遺留分を放棄することが可能です。
遺留分を放棄した場合、遺留分侵害額請求できなくなるため、内容の偏っている遺言書が遺されていた場合でも、遺留分のトラブルに巻き込まれることがなくなります。
遺留分の放棄を行ったとしても、他の共同相続人の遺留分には影響を与えません。また、遺留分の放棄は、被相続人が生きている間でも亡くなってからでも行うことができます。
出典|参照:民法 第九章 遺留分 | e-Gov法令検索
遺留分を放棄した場合、他の相続人に与える影響は?
遺留分を放棄した場合でも、他の相続人に何らかの影響を与えることはありません。民法第1049条でも、共同相続人の一人が遺留分を放棄した場合、他の共同相続人の遺留分には影響を及ぼさないことが記載されています。
そのため、相続人の内の一人で遺留分を放棄したとしても、他の共同相続人には影響はありません。
遺留分放棄と相続放棄の違い
相続放棄とは、法定相続人が相続人としての地位を放棄することを差します。この場合、相続人ではなかったという扱いになるため、遺留分だけでなく、被相続人の資産も負債も一切相続することはありません。
遺留分の放棄は遺留分のみを放棄することであるため、相続人という立場を放棄する相続放棄とは異なります。遺留分の放棄であれば相続権を放棄するわけではないため、遺産や負債を相続することになります。
出典|参照:民法 第九章 遺留分 | e-Gov法令検索
出典|参照:民法 第三節 相続の放棄 | e-Gov法令検索
遺留分を放棄するときの注意点
遺留分を放棄する場合には、いくつか気を付けなければいけないポイントがあります。ここでは遺留分を放棄するときの注意点を紹介するため、参考にしてみてはいかがでしょうか。
他の人が遺留分を放棄させることはできない
遺留分の放棄は相続人本人にしか行うことはできません。そもそも遺留分は相続人の生活を守るために保障された権利であるため、本人の意思でなければ、遺留分の放棄を他の人間が強要させることはできません。
実際に、被相続人が生きている間に遺留分の放棄が行われる場合、家庭裁判所は誰かに遺留分の放棄を強要されていないかどうか調べることになります。
仮に他の人に遺留分を放棄してもらいたい場合は、本人に遺留分を放棄してもらいたい理由を伝えて説得するしかないでしょう。
出典|参照:民法 第九章 遺留分 | e-Gov法令検索
家庭裁判所が認めた遺留分放棄の撤回はできない
一度家庭裁判所が認めた遺留分放棄は、後から撤回することはできません。たとえば、被相続人の生前に遺留分の放棄を行い、被相続人の死後撤回しようとしても、家庭裁判所は基本的に許可を取り消すことはありません。
生前に遺留分の放棄を申請した時点で遺留分の放棄を申請した理由があるため、特別な事情がなければ、家庭裁判所は許可を取り消さないということです。そのため、遺留分の放棄を行う場合は、よく考えて行う必要があるでしょう。
遺留分を放棄しても相続債務は負担しなければならない
遺留分を放棄したとしても、相続債務が免除されるわけではありません。遺留分の放棄を行ったとしても、被相続人に負債があった場合は、相続人として相続債務を負担することになります。
そのため、被相続人に借金があると分かっている場合は、遺留分の放棄ではなく相続放棄を行いましょう。
相続配分を正しく遺言書で残さなければならない
相続のトラブルを避けるために、生前に遺留分の放棄を行ってもらうケースがあります。
たとえば、相続人として事業を継いでいる長男と、障害があり仕事に就けない長女がおり、財産をすべて長女に残したいと考えている場合、長男に遺留分の放棄を行ってもらう必要があります。
また、このようなケースでは遺留分の放棄と遺言書を組み合わせることで長女にすべての財産を残すことが可能になるため、遺言書に相続配分を正しく記載しておきましょう。
遺留分放棄の手続き方法
遺留分の放棄を検討している場合、具体的にどのような手続きが必要になるのか把握しておきたいという人もいるでしょう。ここでは遺留分放棄の手続き方法を紹介していくため、参考にしてみてください。
死後の遺留分放棄の手続き方法
被相続人の死後、遺留分の放棄を行う場合、特に手続きを行う必要はありません。被相続人が亡くなった後に遺留分の放棄をするのであれば、他の相続人に対して遺留分を放棄するという意思表示をするだけで問題ありません。
遺留分侵害額請求権を行使可能な相手に対しては、念書などの書面を作成しておきましょう。なお、遺留分侵害額請求権には期限があるため、権利を行使せずに期間が過ぎれば遺留分を放棄したということになります。
出典|参照:遺留分放棄の死後の手続き |税理士法人レガシィ
生前に遺留分を放棄する場合
被相続人の生前に遺留分の放棄を行う場合、家庭裁判所に申し立てを行い、許可をもらう必要があります。家庭裁判所に遺留分放棄許可の審判の申し立てを行うと、裁判所から遺留分の放棄の意思や、放棄する理由について確認されます。
なお、生前に遺留分の放棄を行う場合には、家事審判申立書や財産目録、戸籍謄本などの必要書類を用意しておきましょう。
出典|参照:家庭裁判所の許可が必要 | 税理士法人レガシィ
遺留分放棄の申し立ての方法と流れ
被相続人の生前に遺留分の放棄を行う場合、遺留分放棄の申し立てを行う必要があります。被相続人の住所がある場所を管轄している家庭裁判所に申し立てを行い、許可をもらうことで、遺留分の放棄が行えるようになります。
それでは、具体的にどのような流れで申し立てを行えばよいのでしょうか。ここでは遺留分放棄の申し立て方法と流れを紹介していくため、参考にしてみてください。
出典|参照:遺留分放棄の許可|裁判所
申立人や申立期限と申し立てに必要な書類や費用
家庭裁判所に遺留分放棄の申し立てを行う申立人は、遺留分を有している相続人本人です。申し立ての期限は相続が開始する前までとなるため、被相続人の存命中ということになります。
また、申し立てを行うためには「申立書」、「被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)」、「申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)」が必要です。申し立てに必要な費用は収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代です。
出典|参照:遺留分放棄の許可|裁判所
申し立て後の流れ
家庭裁判所に遺留分放棄の申し立てを行った後は、「審問実施」と呼ばれる申立人への聞き取りが行われます。また、その後、「遺留分放棄許可の審判」が行われ、遺留分放棄の許可、もしくは不許可が決定します。
家庭裁判所から遺留分放棄の許可がもらえる基準
家庭裁判所から遺留分放棄の許可がもらえる基準は、「他の人から強要されたのではなく自らの意思で遺留分の放棄を行おうとしているか」、「合理的な理由や必要性があるか」、「遺留分の放棄への見返りがあるか」の3点です。
これらの基準によって審査され、遺留分の放棄の許可、不許可が決定されます。
相続人が遺留分を放棄するメリット
相続人が遺留分を放棄するメリットとして、相続人同士でのトラブルを回避できるというメリットがあります。たとえば被相続人に再婚歴がある場合、前妻へは生前賠償金を払い、遺留分の放棄をしてもらうことで、死後の相続のトラブルを回避することができるでしょう。
被相続人が特定の相続人にすべての財産を相続させたいと考えていても、遺留分があるためすべての財産を相続させることはできません。
遺言書を残していても遺留分まで一人の相続人に相続させることはできませんが、生前のうちに遺留分を放棄してもらうことで、スムーズに希望した相続人に財産を相続させることができるでしょう。
遺留分放棄をした相続人に財産を残すには
相続人に留意の放棄を行ってもらうことで、被相続人は特定の相続人に遺産を残せるなどのメリットがあります。しかし遺留分を放棄してくれた相続人にも別に財産を残したいと考えているケースは多いでしょう。
ここでは最後に、遺留分放棄をした相続人に財産を残す方法を紹介していきます。どのような方法があるのか、ぜひ参考にしてみてください。
生命保険を残す
生命保険に加入しておき、遺留分を放棄した相続人を生命保険の受取人に指定することで、お金を残すことが可能です。生命保険の保険金は相続財産には含まれていないため、相続人同士で分割する必要がありません。
また、相続財産ではないことから、遺留分を放棄したとしても死亡保険金を全額受け取ることが可能です。
生前贈与をする
生前贈与とは、被相続人が存命中に財産を贈与することです。遺留分を放棄した相続人に対して生前贈与を行うことで、財産を残すことが可能です。
生前贈与を行う場合は贈与税がかかりますが、基礎控除額が110万円となるため、1年間のうちの贈与額が110万円以下であれば贈与税もかかりません。
出典|参照:No.4402 贈与税がかかる場合
遺言書を作成して財産を残す
遺言書を作成し、遺留分とは別に財産を残すという方法もあります。遺留分を放棄した相続人でも遺言書によって財産を残すことができるため、最低限残したい分の財産を指定しておくことは可能です。
遺言書を作成する場合は、死後遺言が無効になってしまわないように、公正証書遺言にしておくことが大切です。
遺留分の放棄について理解しておきましょう
遺留分の放棄を行うことで、相続人は相続人同士のトラブルを避けられるというメリットがあります。
ぜひ本記事で紹介した遺留分放棄の手続き方法や遺留分を放棄するときの注意点、メリットなどを参考に、遺留分を放棄とはどのようなものなのか理解を深めておきましょう。
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